梅羊羹

03.蕾

 

キャサリンはとても可愛らしい少女です。
金の巻き毛は肩まで伸びて、青い瞳は純粋そのもの、白い肌をした四肢はお人形さんのようです。
あまりの愛らしさに、村中の少年達が彼女の気を引こうと躍起になったものです。けれどキャサリンは、自分が可愛いことを知っていたので、少年達のことは樽の中のジャガイモぐらいにしか思っていませんでした。
ある日、キャサリンがお母さんに頼まれて、村外れで暮らしているおばあさんのお家へ、焼きたてのパイを持っていくことになりました。村外れとは言っても、まだ村の中でしたし、何度もお使いしているお家だったので、お母さんもキャサリンも何の心配もしませんでした。
村の中を歩いていると、靴屋の少年も、酒屋の少年も、金物屋の少年も、皆キャサリンと遊びたくて声をかけましたが、キャサリンはお使いの最中だからと言って断りました。
暫く歩くと、家も店も疎らになり、あたりには誰の気配もなくなりました。
すると急にお日様が翳り、辺りが冷たくなりました。嫌な予感がしたキャサリンは、慌てておばあさんの家に向かって走り出しました。冷たい空気がキャサリンを追いかけるように、強くなっていきます。気のせいでしょうか、遠くから馬が駆けてくるような音も聞こえます。今にも泣きそうなキャサリンは、肩越しに後ろを見てしまいました。
そこには、黒い馬に乗った真っ黒な騎士が居ました。
「キャサリンだな」
騎士はそう言うと、暴れるキャサリンを強引に掴みあげ、馬に乗せて深い森の中へ走っていきます。キャサリンは強引に抱きすくめられて舌を噛みそうになりましたが、それでもなんとか叫びました。
「助けて!! ひとさらいよ!!」
だけど、もう村からだいぶ離れてしまって、誰の耳にも届きませんでした。
黒い馬は、森を抜け、川を越え、夕日さえも越えると、夜の世界までやってきてやっと止まりました。
「今日からお前は、我が主の妻となる」
騎士は疲れきったキャサリンを引きずって、不気味な城の中へ入りました。
石を積み上げて造られた廊下を歩いていくと、ある部屋の前で止まります。
「キャサリンを連れてまいりました」
「入れろ」
身の毛もよだつような声が部屋の中から響き、部屋の扉が僅かに開かれました。
その隙間から放り込まれたキャサリンは、闇夜の王に出会い、純潔の花を散らしたのでした。



最終更新日 2005/05/05
一    言 童話っぽい話を書くのは好きです。