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風邪を引いたのは先週のことだ。
運が悪い事に、同僚からもらった風邪で、奴はさっさと職場に復帰したのに、こっちは二日も欠勤した。全くやってられないと思いながら出てきたのは良いが、週末の忙しさにかまけていると、休日に見事ぶりかえしたのだ。
二日も休んで仕事が溜まっていたとはいえ、無理をしなければとベッドの上で悩んで二時間。不毛だ。
看病してくれる優しい彼女でも居れば気が紛れるのだが、生憎と彼女とは遠距離で、しかも冬に別れたばかりである。こういう性格が祟って振られたのだから、救いようがないのだが。
全く、何か良いことは無いだろうか。
「そんなあんたにこのボタン。一度だけ時間を巻き戻せるぜ。それも好きな時間まで」
驚いて声のした方を見ると、つけっぱなしのTVから、気味の悪いピエロがこちらを見ている。悪趣味な番組だが、TVを消す力も起きない。
「いやいや、あんたさ、そもそもTVつけてないじゃん。気付こうよ俺の存在!」
言われて俺はゾッとする。そうだ、TVのコンセントは節約のために引っこ抜いてた。付くはずがないのだ。
「おいらはニクス・ノート・ナッシング。悪戯小人の類さ。まあ、自己紹介はこんなもんで、あんたにこのボタンをやるよ」
そう言ってTVの中から、某クイズ番組で押されてるようなボタンが飛び出してきて、俺の枕元に落ちた。
「使い方は簡単。戻りたい時間を願いながらボタンを押せば、その時まで戻れる寸法さ」
TVからボタンが出てくるはずもない。これは夢だ。相当熱が出ているに違いない。
「信じる信じないはともかくとして、押すの? 押さないの?」
はっきりと口にはしないが、さっさと押せと全身で言っている。
むかつくが、どうせ夢だし、今日ははっきり言って気に喰わないことだらけだ。悪夢と戯れるのも良いだろう。
戻るなら、やっぱり彼女から別れの手紙が届いて、必死で取り繕おうとしたあの日だろう。もしかしたら、やり直せるかもしれない。
ボタンを押した瞬間、俺は真っ白な光に包まれて意識を失った。
「おいらはニクス・ノート・ナッシング。悪戯小人の類さ。ある男に時間を巻き戻す力をやったが、一つ言い忘れてたことがあるんだ。実はさ、使った奴の時間も記憶も戻っちまうんだよ。つまり、あいつはまた振られたってわけだ。ははは、ざまあねえな!」
最終更新日 2005/05/05
一 言 「一人ぼっちの冬」に出てきた悪戯小人再登場。
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