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夏休みを利用して、私たちはちょっとした旅行を計画した。
どういう集まりなのかというと、いわゆるネット友達のオフ会という奴で性別はおろか職業もかなり偏っている。
初めて現実で会う人たちも多いので、私は少し緊張していた。
孤島と言っても過言じゃない、本土から離れた某県某島。
鬱蒼と茂る森が海岸線間際まで侵食し、沿岸を走る道路は薄暗い。
そんな道を港からバスで暫く走ると、集合場所である小さな岩礁が見えてくる。
私はバスを降り、沿線から岩礁へと下る階段を降りていく。
つまづいたら痛そうだなと思いながら、岩場としか言えない場所に立った。
それから先に到着していた人たちに簡単に挨拶し、バーベキューの容易を手伝う。
ちなみに、私の担当は、家が遠いということもあって、何故かお好み焼きの粉だった。
「バーベキューですよね?」と主催者に尋ねると「バーベキューの終わりはお好み焼きでしょう」と返信メールが来たのを覚えている。
同じくにで生まれ育ったはずなのだが、食文化とはかくも違うのだろうか。
なんだかんだ言ってバーベキューをしていると、少し先にある急カーブの影から一隻のボートがやって来た。
何故か大漁旗を掲げたボートは、今だ到着していなかった主催者一向らしい。
なんというか、はじめてみた顔だが、派手な面子である。
普段はスーツ姿が似合いそうな大人達が全員アロハシャツ着用している。
よくわからない盛り上がりを見せたバーベキュー大会も終わり、場所を宿泊予定の海岸線の村へと移る。
村の南に広がる浜辺には、大きな木造の難破船があり、古い時代に流れ着いてそのままにしてあるのだそうだ。
ところどころ崩れているので入らないよう言われたのだが、そこはハッチャケタ人々の集まりである。
お酒が入っている人もいて、みんな勢いよく難破船探索に乗り込む。
かくいう私はというと、生来の臆病風を吹かして最後尾にちょこんと付きまとう感じだ。
それに、実のところ、一番最後を仏頂面で付いて来る男性が気になるというのもある。
歳は30代前半か良くても二十代後半ぐらいで、ほどよく日に焼けた体は、他のビジネスマン風のメンバーと異なり逞しい。
職業は明かさないが、きっと自衛隊か何かだろう。
いつの間にか入り組んだ船の中でメンバーがバラバラになり、私と彼以外のメンバーは見えなくなってしまった。
誰かの意地悪か、それともみんなに置いてかれたのか。どっちにしろ微妙な気分である。
何せ、私は自分から喋るのが苦手で、彼は彼で放しかけても「うん」とか「あぁ」とかぐらいで会話が続かないからだ。
息が詰まった私が振り返ろうとした瞬間、船がぐらりと揺れる。
私が悲鳴を上げそうになると、彼が私を抱きかかえ、私の口を塞ぎ、近くの船室へと転がり込んだ。
何が起きたのかわからなかった。
ただ、耳元で「静かに」と囁いた、彼の真剣な声に腰砕けになってしまった。
私は恐怖と気恥ずかしさで彼の腕にしがみ付いた。
お互いの鼓動が聞こえる。これはチャンスなのか?
と、余計な事を考えていた私だが、一転して恋愛モードは終了する。
先ほどまで私たちが立っていた通路を、オフ会のメンバーが転がっていく。血を撒き散らしながら。
声にならない悲鳴を上げそうになって、彼の腕に爪を立ててしまう。
揺れが収まると、彼はやっと私の口から手を離し、震える私を抱き起こす。
「正直、あの話が本当だとは思わなかった」
「あ、あの話?」
唐突に口を開いた彼を見る。彼は不満気な顔で説明を始めた。
「この船には亡霊が棲んでる。そいつらは、生きた人間を喰らって、その体を乗っ取り、この船の外へと出ようとしている。そ ういう話だ」
「村の人はそんなこと……」
「村の連中も知らない話だが、まぁ気にするほどでもないよな。それより、探すぞ」
「探すって何を?」
言葉を遮られ、勝手に話を自己完結された私は不機嫌な声で尋ねる。
「亡霊達をこの船に縛り付けてる霊媒さ。確か、白い服の少女だと聞いたが……って、どうした?」
「そ、その子って、も、もしかして、め、目玉がなくって、その、ミイラちゃんとか?」
「そうだ。よく知ってるな」
感心したように頷く彼。しかし、ただいまの私は恋愛モードに走れない。
「あのあのあの、そ、そそそそそそこにっ」
「は?」
彼が私の視線が固まっているのに気付いて振り返る。
勿論そこには、眼下に暗い穴を抱くミイラの少女が立っていた。通路から部屋を見ている。
さすがの彼も一瞬硬直したが、すぐに気を取り直してミイラの少女に話しかける。
「霊媒だな?」
『そう』
「どうして亡霊達が解き放たれた?」
『人間達が、あたしの目から光を奪ったから』
「それはどこにある?」
『どこかわからない』
「光を戻せば、亡霊は静まるか?」
『静まる。亡霊と、とり憑かれた人間はあの光に触れられない。だが、生身の人間には触れられる』
「つまり、憑かれた人間に何か言われた連中が持ってる可能性も?」
『ある』
ミイラ少女の言葉に、彼は疲れたように溜息を吐いた。
「もう一度聞く。どこにあるのかわからないのか? おおまかにでも」
『その娘ならわかるだろう』
「は?」
彼は驚いたように、私を見た。
ミイラ少女に突然指差された私の方もどっきりである。
「あの、全然わからないんですけど」
『大丈夫。先ほど船が揺れてから頭が痛くないか?』
「痛いです」
『痛みが強まる方へ進めば、光はある』
「地雷探知機か何かですか」
つい冗談を吐くと、彼が小さく笑った。初めて笑っている姿を見た気がする。
「なんだ、意外に肝が据わってるじゃないか」
「そんなことないです。今でも体中震えてるんですから」
「それだけ達者な口をきけるなら大丈夫だ。行くぞ」
言われて立ち上がると、彼を先頭に、私、ミイラ少女の順で狭い廊下を進んで行く。
「なんていうか、こっちなんだけど、もっと下っぽい」
「おい、この船は何層あるんだ?」
『所々崩れているが、船倉から最上階の看板まで入れると10階だ。ちなみにここは8階』
「だいぶあるな」
彼は苦笑して、不意に私とミイラ少女を抱きかかえて、近くの船室へと飛び込み扉を閉める。
扉の先では、誰かが悲鳴を上げて走り去る音が聞こえた。
その後を、複数の足音が駆けて行った。
「早速始まったな。人間狩りが」
『そのようだ。急がないと、船から彼等が出てしまう』
「そうだな」
私はミイラ少女と彼のやり取りを聞きながら、頭痛が更に増すのを感じてその場に倒れる。
「どうした!?」
倒れた私に、彼が慌てて近寄る。
「頭、痛い、すっごく」
言いながら、私は無意識のうちに部屋中に視線を巡らす。
すると、続きの部屋に小さなキッチンがついているのが見えた。
キッチンの右端には、黒くなった排気口。
「排気口、壊して、下へ、一番底、水浸し、今なら誰もいない、光が……」
自分でもわけがわからないうちに言葉が口から溢れる。
私が頭痛に呻いた瞬間、部屋の扉が勢いよく叩かれた。
「ちっ、気付かれたか?」
『任せろ』
ミイラ少女は、その非力そうな腕からは想像もできない腕力で、転がっていた家具を扉の前に積んで行く。
『暫しの時間稼ぎになろう』
「どうも」
彼は小さく頷いて排気口の前へ行く。
「こりゃ、本当に壊すしかないな」
排気口の入り口は狭く、一番小さなミイラ少女でも入れそうになかった。
彼は懐からプラスチック製の小さな箱を取り出して、それを排気口の少し下に取り付けると、慌ててこちらの部屋へ戻ってきた 。
「伏せろ!」
ミイラ少女が壁にしがみつき、身動きできない私に彼が覆いかぶさる。
次の瞬間、轟音と衝撃が船を揺らした。
衝撃の次に吹いてきた冷たい風に頭痛が増す。
「行くぞ」
彼は私を背負い、ミイラ少女を招く。
最初に彼が穴に飛び込むと、私はミイラ少女に抱え上げられてその穴を落ちる。
下で待機していた彼が私を受け止め、濡れた床へ降ろしてくれた。
その次に落ちてきたミイラ少女も彼が受け止めて床へ降ろすと、座り込んでしまった私に背中を向ける。
「おんぶしてやるから手を伸ばしてくれ」
「ありがとう……」
彼の肩に手をかけると、勢いよく背負われ、少し体制を整えてから歩き出す。
「どこだ?」
「すぐ、そこ。水の中」
言った瞬間、私は自分でも想像できないほどの力で彼の背中を押し、跳躍すると、真っ暗な水の中に飛び込んで、二つの光を握りしめた。
光を握り締めると、体中が歓喜する。
恍惚とした表情の私を、彼が水の中から引きずり出す。
「馬鹿か!! 鮫がいたぞ!?」
言われて振り向くと、暗い水の底に、ゾッとするような平坦な瞳が見えた。
だが、体が勝手に動いたのだから仕方ない。
「でも、光は無事です」
減らず口を叩きながら、私は光を彼に渡す。
「あぁ、よくやったよ。何も知らない癖に」
苦笑しながら、彼は光を握ってミイラ少女を呼び寄せる。
私にはピカピカ輝く金色の光にしか見えないソレを、難無く少女の顔の穴へはめた。
一瞬、光が薄れ、私は見た。
はめ込まれたのは、黄金製のごっつい指輪であることがわかった。
次の瞬間、辺りが光に包まれ、ミイラ少女は、銀髪金目の白人の少女へと変わる。
とても愛らしい姿なのだが、神々しくて、私は声も出ない。
『……遅かった』
「何?」
少女の呟きに、彼が眉間に皺を寄せる。
『何体か外へ出てしまった。外に出てしまったものはもう、あたしでは対処できない』
私は愕然として、彼に抱きついた。
亡霊が外へ出たのだから、最悪の事態が起きてもなんらおかしくない。
沢山の関係ない人が死ぬ可能性があるのだと、瞬時に悟ると、身体が震えた。
「ったく、俺は今休暇中だってのに」
『宜しく頼むぞ――――よ』
少女の呼んだ名を、私は聞き取れなかった。
彼は頷き立ち上がると、私を背負って、亡霊退治に向かったのだった。
最終更新日 2006/05/05
三 言 2005年に見た夢に手を加えて収録したもの。
夢なので、実際はもっとありえないことが起きていました。
例えば、難破船に乗ってたはずなのに、実家に四人で隠れ、
亡霊の配下になった日本警察百名に取り囲まれていたりとか。
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