無題

type:short story

 

昼を少し回ったところだろうか、人気の薄れた町並みを見上げながら竜人が歩いている。
旅人なのだろう、くたびれた服を纏い使い古された雑嚢が、その歩みに合わせて左右に揺れる。
大通りの中央に位置する公園の手前で足を止めると、斑に人が行き来する様を見た。
「相変わらず、昼間にゃ人気が少ねぇな」
緑の瞳を細めて笑う。とても懐かしそうに。
白髪交じりの緑の髪を掻き揚げて、捻れた角の根元をかじっていると、公園の方から誰かが手を振り近づいてきた。
竜人は僅かに体を強張らせ腰に下げた剣の柄に手を伸ばしたが、すぐに緊張を解し、近づいてきた竜に握手を求める。
「お久しぶりっス。お元気でしたか」
その言葉に、強い力で竜人の手を握り返した竜が低く笑う。
「それなりにな。お主も元気そうで何よりだ。この街が滅ぶ前にもう一度会えるとは思わんかったぞ」
「ここは俺にとっても故郷なんスから、意地悪言わないでくださいよ〜」
笑顔で世間話をすると、竜は短い別れの挨拶をして広場にたむろする輪へと戻っていく。
その姿を見送り広場に背を向けて歩き出すと、竜人の顔が寂しさに歪んだ。
「この街が滅ぶ前に……か」
いくつもの島からなるこの世界では、日夜新しい島が生まれ、古い島が滅んで行くのが常である。
だが、ここ数ヶ月ときたら以前にも増してその移り変わりが激しいのだ。
一所に留まらず、様々な島を旅するこの竜人でさえ、気に入りの島が一夜の間に滅ぶのを何度となく見てきた。
それでも、別れの寂しさに耐えられたのは、帰るべき故郷であるこの街があったからだ。
しかし、現実はそんなに甘くないことを、彼は苦虫を潰す思いで受け入れなければならない。
路傍の小石を蹴り上げると、街頭に跳ね返ってあらぬ方へと跳んだ。


十日後には滅ぶというには活気のある街を歩きながら、竜人は友人知人に挨拶をして回る。
街の住人の多くは竜や竜人だが、人間や獣人もいるところが竜人のお気に入りだ。
竜の街でありながら、誰も余所者や異種族を排除しようとは思っていないおおらかな雰囲気が、旅の疲れを拭ってくれるからである。
そんな街の住人達に挨拶をしながら、竜人は、やはり昔のままではいかないのだな、という気持ちを抱かずにはいられなかった。
古い友人知人の傍らに、若い者たちの姿をよく見かける。
街を忘れたように旅を続けていたのだから、彼らを責める資格はないのだが、やはり若い者たちを重宝するかのうように、短い挨拶だけで済まそうとする友人知人の様が気に食わなかった。
あらかた回ったところで、彼がこの街に来た頃からの付き合いである親友の家へと足を伸ばす。
普段から、街へ戻ると宿代わりにしている家で、もはや実家のようなものだ。
彼の家へ向かう足取りが軽くなり、いつの間にか走り出し、やがては背中に生えた白い翼を羽ばたかせて先を急いだ。


「おーい、いるかぁ?」
勝手知ったる他人の家。
古臭い二重扉の玄関を開けた瞬間、毎度お馴染みの埃臭さを長い鼻先に感じる。
「あいかわらずの蔵書数…ってわけでもねぇのか?」
言いながら、竜人は眉間に皺を寄せる。
彼の友人は、読みもしないくせに本が大好きだ。
いや、読む本も多々あるのだが、その倍もの本を観賞用として所有している。
そんな奇怪な友人の家は、本棚に入らなかった本が部屋を出て、廊下から玄関、果ては靴箱の中にまで納まっているのが常だが、見回した限りでは蔵書の多くが姿を消し、本が置かれていた後が壁や床にくっきりと残っている。
「引越し先にでも移したか?」
そう呟いて竜人は俯く。
(あいつの性格を一番わかっているのは、どんなに長く離れていても俺だけだ。あいつが、こんな事をするのは……)
「お帰り」
足を止めていると、奥から竜が現れた。
竜人よりも縦に二倍、横に三倍は厚みを持った、土くれ色の竜が軽く手を上げる。
竜の背後から本を抱えた人間がおどおどと顔を覗かせたのに気付き、上げかけた手を下ろす。
「…テメェはいつから人間なんぞに、大切な本をくれてやるようになったんだ?」
敵意を露にした声に、人間の、よく見ればまだ幼さの残るあどけない顔つきの少女が身をすくめる。
竜人も、まさか自分の口からこんな言葉が出るとは思ってもいなかった。
酷い言葉を投げつけたかったわけではないのだ。
ただ、少女の抱きしめている本は、親友が特に大切にしていた古書の一つであることを知っていたから、怒鳴ってしまったのである。
(こいつは、きっと……)
「怯えなくて良い。あぁ見えて優しい奴だから。確かに釣り目だし、剣をぶら下げて、いかにもチンピラのようだが」
「誰がチンピラだよ、この歩く要塞! テメェ、自分のナリを見てから言えよ!」
「ふむ」
竜人の言葉に竜は首を傾げて背後に隠れた少女を見る。
「要塞かもしれないが……まぁ、いい。ともかく、この娘にも用事はある。通してくれないか」
少女を優先するような言葉に竜を睨み付けたが、これ以上何も話そうとしない姿を見て大人しく廊下の脇に避けた。
目の前を竜と少女が過ぎ去る瞬間、少女と視線がぶつかり視線を逸らす。
少女は気まずそうな顔で竜に何かを呟いたが、竜人には聞こえなかった。


玄関を開け、少女を見送ると、竜は鍵を閉めて親友の肩を小突く。
「まだ怒ってるのか」
感情表現に乏しい親友の顔が困惑の色を浮かべているのを見て竜人は鼻を鳴らす。
「俺の勝手だ」
「そうかもしれないが……まぁ、いい。一服するところなんだ。君は珈琲だろう?」
「あぁ」
竜は小さく笑うと、台所へと消えた。
赤みを帯びた土くれ色の背が見えなくなったのを確認して竜人は溜息交じりに廊下を進む。
小さい家の為か、数歩進めばすぐに居間だ。
廊下の壁紙に焼きついた本の山の後を睨み、舌打ちしながら居間へ踏み入った。
瞬間、竜人は腰に下げた剣を抜いて、居間で所在無げに佇んでいた龍人の少年を威嚇する。
「誰だテメェ!?」
少年の方も、一瞬遅れで抜刀した刀を竜人に向けて叫ぶ。
「あんたこそ何者だ!?」
青年と言うにはまだ若い少年は、手にした刀と良い、場違いとさえ思える和装と良い、今時珍しい格好だ。
漆黒の瞳が眼鏡越しに睨みつけていなければ好意的に話しかけたいタイプだ、と竜人は思いながら間合いを詰める。
「何をしている?」
少し焦ったような声が居間に響いた。
竜人と龍人が声の主を見ると、盆の上に飲み物と茶菓子を乗せた竜が佇んでいる。
「アイツ誰だよ!! 強盗だったら俺が斬ってやるぜ!?」
「そこの竜人は何者ですか!? 知り合いでなければ始末します!!」
二人の言葉に竜は口ごもったが、気難しい顔で居間の中央にあるテーブルへ近寄りお茶の用意を始める。
テーブルを挟んで二振りの刃が向かい合っているというのにだ。
これには、睨み合っていた当人たちの方が困惑する。
「おい、答えろよ!?」
竜人の言葉に竜は二人を交互に見やり口を開く。
「お互いに自己紹介をすれば良い。私は疲れた」
投げやりな言葉に僅かな怒気が含まれていることを悟った竜人は、剣をしまって席へとつく。
竜とこの龍人は知り合いなのだろうが、わざわざ自分から名乗りたい気分でもないし、茶の席を盛り立てたい気分にもなれなかったので閉口することにした。
竜人の様子に土くれ色の顔が苦笑し龍人の少年に席へ座るよう勧め、自身も席へつく。
即席珈琲の薄っぺらい味とクッキーのパサパサ感がこれまた気に食わないのだが、珈琲の正しい入れ方さえ知らない親友の家に珈琲がある理由を良く知っている竜人は不意に笑ってしまう。
そう、この珈琲は、時たま帰ってくる竜人のためだけに、料理書に半場占領された台所の一隅を占拠しているものである。
こんな苦い飲み物が好きな奴の気が知れないと文句を言う緑茶派の竜が、横目で竜人を窺う。
視線があったので、お気に入りのカップに注がれた茶色い液体を豪快に飲み干してお代わりを要求する。
竜は頷くと、カップを受け取って居間を出て行った。


完全に竜の姿が見えなくなったのを確認して、竜人が口を開く。
「パズだ」
「……は?」
前後の会話もなく飛び出した言葉に、龍人の少年が不快気な表情を浮かべる。
「俺の名だ。見ての通り旅をしてる。あいつとはこの街で出会った。付き合いは長いほうだぜ」
ようやく合点がいったという顔で、しかし、少年は不快さを露にしたままで口を開く。
「ムシキさんから聞いてる。帰ってくるかどうかもわからないし連絡も取れない奴だと。身勝手な癖に親友なんだな」
棘のある言葉に、竜人の瞳が細まる。
「ふん、俺たちの勝手だ。で? 大層な口を利くテメェは誰だよ」
「……俺の名前は蒼陽龍弥。ムシキさんとは付き合い始めて半年ぐらいだ」
「で、今日はなんでここに居るんだ?」
「ムシキさんに用事があっただけだ」
「用事? どんな?」
「なんで、あんたに、教える、義務が、ある?」
わざとらしく言葉を切って、一語一語を協調する龍弥に、パズが立ち上がり怒鳴った。
「はぁ? 俺が知りたいから聞いてるだけだろうが!? それに、さっきからテメェ何様のつもりだ? あぁ!?」
「あんたこそ何様のつもりだ!! 身勝手野郎相手に真面目に答えるわけがないだろう!?」
龍弥が勢いよく立ち上がった瞬間、テーブルの上に置かれたショートケーキがひっくり返った。
瞬間、耳をつんざく絶叫が響き渡る。
何事かと居間の出入り口に視線を向けた二人は、顔を引きつらせた。
珈琲を片手に悲しみと怒りで蒼白となった竜が立っている。
わなわなと震える肩も、広がった鼻の穴も、そして何よりも絶叫の余韻を残しながら閉ざされた口の端から覗く牙も、彼の怒りを代弁している。
二人が硬直しているとテーブルに珈琲を置いた竜が叫んだ。
「くだらない言い争いでショートケーキに害を与えるとは!! そんなに戦いたいなら出て行け!! というか私が出て行く!! むしろお菓子に謝れ!! 死んでお菓子の無念を考えろ!!」
親友のお菓子好きを彼は再確認する羽目になったのだった。
勢いで部屋を出て行った竜は寝室に篭ってしまったようだ。遠くの方で扉が閉まる音がした。
長く気まずい沈黙を破るように、パズが口を開く。
「片付けるぞ」
それだけ言って部屋を出るとキッチンへ踏み入る。
昔は半場占領していた料理本の山が無いのを、苦い気持ちで見ながら布巾を見つけ流しで軽く洗い絞る。
ショートケーキをひっくり返したのは龍弥とかいうガキだ、と言いたかった。
一方で、そんな子どもじみた言い訳をしたくはなかった。
親友である土くれ色の竜がわざわざ珈琲のお代わりを入れに退席したのも、今またお菓子の一件で寝室に閉じこもってしまったのも、パズと龍弥がお互いに話し合えるよう気遣っていることぐらい分かる。
他人にはそうは見えなくてもパズには不器用な親友の性格がよく分かっているのだ。
まぁ、ショートケーキのことは本気で怒っている可能性も高いのだが。
布巾を片手に居間へ戻ると龍弥が潰れたショートケーキを皿の上に乗せていた。
「流しの三角コーナーに入れとけば良いぜ」
無言で脇を過ぎる龍弥を殴りたい衝動にかられながら、無言でテーブルを拭いた。


龍弥と和解できたとは思えなかったし、和解できるとも思いたくなかった。
所詮、若い奴とは気が合わないんだ。
そう言い聞かせて親友の家から飛び出したパズは、夕刻まで街をぶらついた。
日が暮れるに従って人通りが増して行く通りを見下ろしながら、パズは懐かしいビルの屋上へと飛び降りる。
そこにも見知らぬ顔がいて驚く。どうやら、管理人を失ったこのビルを使っている奴等がいるらしい。
「新人さんですか? ここは……あ、あなたは……」
人の輪から近づいてきた少女が口を濁す。昼間、ムシキの家で会った少女だった。
何を言おうか迷うその顔を見下ろしたパズの中に怒りがこみ上げる。
「あんたにとっては新人かもしれないが、俺から見てもあんたは新人さ。断裂した時代が俺とあんた達の間には横たわってるんだからな。あぁ、この島が沈むまでそうやって笑ってると良い。この島に起こった不幸さえお祭にしながらなっ!!」
怒鳴りつけると、輪を作っていた奴等がパズと、涙を瞳に溜めた少女を見る。
「お前等も同じだ!! このビルが送ってきた苦難の時代を何も知りはしないんだろう!? 管理人が消えた理由も知らないくせにっ!!」
取り乱し怒鳴るパズに、誰かが問い返した。
「じゃあ、あんたは知ってるのかよ!」
パズは喉に詰まった言葉を吐けず、逃げ出すように夜空へと飛び出した。
(管理人が、あいつがいなくなった理由を……人づてに聞いたが……それさえあやふやな噂だった……所詮、俺だって何も知っちゃいないさ)
悲しみに一度吼え、夜半過ぎまで空を飛んでいると、また先ほどのビルの上までやってきてしまった。
どうも先ほどの連中は引き揚げたらしかった。
降りようかどうしようか迷っていると、誰かが手を振っている。
ムシキだ。
パズが静かに降り立つと、赤土色の竜はその場に座って空を見上げる。
「龍弥だっけ? あの餓鬼はどうしたんだ? 懐いてるようだったじゃないか」
ムシキの隣に座って尋ねる。その声は棘に塗れ、自分の心さえ傷つけるのがわかって悲しかった。
こんなことが言いたいんじゃないのに。
「あの人間の娘に本をやっちまって、お前は人が良すぎるんだ! あんな小娘に、お前の本に対する気持ちがわかるのか!?」
膝を抱えて泣き始めたパズの隣で、竜は静かに耳を傾けている。
「若い奴らが街に溢れかえってるんだ!! 沢山の思い出があるこの島を、我が物顔で歩いてるんだ!! そうして皆が訳知り顔で重宝するんだ!!」
足に顔を埋めると、膝が涙で濡れるのを感じた。
「どうして俺だけ、過去に取り残されてるんだよ!?」
それから先は言葉にならず、押し殺した嗚咽交じりの泣き声だけが深夜の屋上に響き渡る。
純白の翼を震わせて蹲る竜人の頭を、竜は優しく撫でた。
どれぐらい泣いただろう、月の位置がすっかり変わっていることに気付いたパズは、隣に座った竜を見た。
「どうして、お前はこの島に残るんだ?」
こいつが大好きな本を整理して、引越しの仕度をしているならば、あんなに本だけが無いはずはない。
「お前と同じで、私も過去に取り残された者だからだよ」
そう言って差し出されたグラスには、氷山を思わせる氷を浮かべたウィスキーが入っている。
「この島こそ私の故郷なんだから、どうしてここから先へ進めるだろうよ?」


それからの数日は、表面的にといえどムシキを通して龍弥やあの少女と和解した。
侍のような姿をしている癖にバイクに乗るのが好きだという龍弥に連れられて外出した。
やたら空が晴れていて、胸騒ぎがする昼だった。


「……すまん、なんか悪い予感がするんだ。ちと戻る」
「え? あ、なんだよ!? おーい!!」
龍弥が呼び止めるのも聞かず、バイクから降りて空を駆ける。
(なんだ、なんなんだ、妙な胸騒ぎがしやがる。)
ぐんぐん早さを増していく翼に、荒れ狂う風がぶち当たって空から落とされた。
パズはそんなことなぞ気にせず、悲鳴と絶叫の上がる島の一角へと向かって走り出していた。
(あそこには家があるんだ! あのビルがあるんだ!)
逃げ出す人の波に逆らって突き進むと、人だかりの先には親友の――ムシキの家があるはずだった。
「なんなんだよ、これは?」
しかし、無秩序な崩壊が周囲に混乱を与え、誰も俺の問いに答えてはくれない。
「おい、なんなんだよ!! あいつはどうしちまったんだよ!?」
見れば、ムシキの家があった地区がぽっかりと陥没している。
正午をやや過ぎた強い陽光でさえも底を照らせないほど深く、落ち窪んでいるのだ。
翼に風を受け無我夢中で飛び込もうとしたところを、誰かに思い切りひっぱられて地面に尻餅をつく。
「何しやがる!? 俺の親友があそこに居るんだぞ!?」
見れば、パズがこの街へ戻ってすぐムシキの家で見かけた少女が、大粒の涙を零しながら怒っている。
「もう助からないからっ!! 逆巻く風が吹いてて、底にはもう、誰もいけないからっ!! 死んじゃうからっ!!」
逆巻く風。
沈む島に時折現れる現象の一つだ。
地盤が緩んでいるところに、逆巻く風と呼ばれる大きな負荷がかかり、陥没する。
風はその場に留まり、決して誰をも寄せ付けない。それは島が沈むまで続く。
風の開けた大穴の底から助かったという話しを時折聞くが、それは翼のある種族や空を飛ぶ手段を持つ者であって、ムシキのように、飛ぶことのない生き物の話しではない。
パズは地面を叩いた。
「こんな別れ方ってあるのかよ!? まだこの島が沈むまで時間があっただろう!?」
島が沈む数日前のことだった。


「後ろに乗ってきますか? 俺、この先の新しい島に行くことにしたんで、そこまでだったら送ってきますよ」
「あ? あぁ。頼むよ」
後ろから声をかけられ振り向くと、バイクに跨った龍弥が居た。
「ムシキさんの事は本当に残念でしたね。俺もあのヒトには世話になった口ですから、ギリギリまでバカやってたかった」
龍弥の言葉に、パズは無言で頷きながら、バイクの後ろへと跨る。
「俺もさ。あいつの前では大抵のバカは許されたからな……」
「…………」
島の崩壊が遠くで始まる音が聞こえた。島が沈むまで後二時間。
ギリギリまで街にいたが、あの後、ムシキの姿を見た奴を見つけることはできず、あのビルも倒壊していて近寄ることができなかった。
パズの旅の荷は、あの人間の少女が持っていた。何かを予感したように少女を家から追い出したムシキが、渡してくれと託したという。
荷物の中には、ムシキが大好きだった童話が一冊、間に何か色々挟まった状態で押し込まれていた。
しかし、それが親友を失った悲しみを埋めてくれることはない。
それを察してか、龍弥は無言でバイクを走らせていた。
不意に、パズが口を開いた。
「そう言えばお前、今日泊まる場所はあるのか?」
「あー、いえ、その……ちょっとまだ見つけてないっスね。なんだったら野宿でも良いかなーって」
龍弥が定住する家を持たないことを聞いていたパズは小さく笑った。
「それなら俺と来いよ。この先の新しい島で不動産屋をしてるやつの家に泊めてもらう約束してるんだ」
「良いんスか?」
龍弥の声は、すまなさそうな言葉遣いとは裏腹に、期待に満ちている。どうやら、本気で野宿を決め込んでいたようだ。
「あぁ、今日は二人で邪魔するって言ってあるからな」
「二人……」
龍弥が押し黙る。二人という言葉の意味がすぐに分かったからだ。
「行くのか、行かないのか?」
「行きますよ」
「よーし、じゃあ、道案内は任せろ。運転はお前に任せた。よろしくな!」
「こっちこそよろしく! っと、飛ばします、ちゃんと?まってて下さい」
「おう」
自分より一回り小さい龍人の体に捕まると、エンジンが勢いよく吼えてスピードを増す。
肩越しに振り返ると、蒼い空と青い海の間に消えて行く島が見えた。
そこには沢山の竜や竜人が居て、楽しい思い出や悲しい思い出を紡いでいた。
旅する竜人にとって、ただ一つ帰るべき故郷は、今、壊れながら誰も寄り付けない深い海底へと沈んで行く。
土くれ色の竜は、まるで壊れた故郷を、いつでも竜人が戻ってこれるように守るために先に沈んだようにさえ思えた。
それが希望的観測でも、綺麗事だったとしても、竜人には良かった。
そう思うだけで僅かに救われる気がしたのだから。
「……あばよ、俺の大親友。本を巣に、良い眠りを」



最終更新日 2005/08/28
感    想 Dragon Inside終了に際しておくるはずだった小説です。
        しかし、これを投稿する場所がシステムダウン。
        未完のまま乗せても良かったかもしれませんね。
        そう、本当は私も、ムシキのように眠ればよかったのかも……。