鈴の音と共に連れ去って

乾 蝶蘭

 

薄暗い山の中、茂みに隠れた彼女はじっとその時を待っていた。
水辺のすぐ近くにあるこの広場は、水辺で殺しをしてはいけないという決まり事になれた馬鹿が、浮ついたままやってくるのである。
彼女が息を凝らしていると、水辺の方からはしゃいだ足取りで小鹿がやってきた。母親はまだ水を飲んでいるらしい。
彼女は小鹿がギリギリまで近づくのを辛抱強く待つ。普段は兎や鳥ばかりだけに、久々の大物だ。なんとしても仕留めねばならない。
小鹿が、何を思ったのか、軽い足取りで彼女の潜む茂みの前までやってきた。
瞬間、彼女は茂みから飛び出し、小鹿の喉笛を噛み切ると、親がやってくる前にその体を背中に乗せて走り出した。
急いでここから離れなければ。
口の周りについた血を舐めながら、小鹿を落とさないよう必死で山の中を走り、ぬかるんだ山道を下って、ある店の裏までやってくる。
荒い息を吐きながら呼び鈴に繋がる紐を引くと、暫くして中から人間の男が出てくる。
「やぁ、蝶蘭。今日は大物じゃないか!」
野太い笑みの男が蝶蘭と呼んだ山犬の背から小鹿の屍を受け取り奥へ消える。
暫くして戻ってきた男は、金の詰まった袋を蝶蘭の首に提げる。
「なかなかの一品だからな、今日の代金は重いぞ」
「大丈夫! オレはこの程度の重さで潰れたりしないぜ!」
「はは、さすが蝶蘭っ! この蒼専属の肉屋だけあって頼もしいな! だが、あんまり無理はするなよ」
笑って頭を撫でてくれた男は、蝶蘭の口に肉を放り込む。味からして、先ほど仕留めた小鹿らしかった。
「オーナーには内緒な? また良い肉を頼むぞ」
「どみょっひゅ(どもっす」
咥えた肉を取り落とさないように礼をすると、男と別れた。
帰り道、店の前を通りその看板を見上げる。
蒼。
先ほどの男はこのレストランのシェフで、唯一、蝶欄が心許せる相手だ。
確かに、山犬である蝶蘭としては生肉も好きだが、ここのハンバーグやピザなんかも美味しいと思えるのは、やはりあの頑丈そうな男が作ったと思うからかもしれない。
「もちっと金が溜まったら……」
そう呟いて、蝶蘭は店に背を向けて住処へと戻った。


凛とした鈴の音が店内に響く。
うたた寝をしていた蝶欄は、ハッとして顔をあげ驚いた。
「どこだここ!!」
久々に大物を仕留めた疲れからか住処でぐっすり眠っていたはずなのだが、見渡せばそこは見知らぬ場所で困惑する。
どうも足元を見る分には牧草地のようだが、八方に建てられた柱とそれを支える細い柱の上から分厚い布がかけられており、円形の天井が張られているせいか全体的に薄暗い。
昔潜りこんだサーカスのテントを思い出す造りだ。それよりかはいささか小さいが。
テントの中央に置かれた長い煙突を持つ小さな簡易暖炉に当たっていた人間がこちらを向く。
「イらっジャいマぜ。ココは、夢の中のようなモノでズ」
しゃがれた声の人間は、見慣れない服装をしているのだが、最も奇妙なのは頭から足まで、肌の見えている部分は全て包帯に覆われていることだ。大怪我でもしたのかもしれない。
胸糞悪い、なんて気味の悪い人間だろうと蝶蘭は思う。
「やめなさいよ、その声! 聞いてるだけで腹が立つったら! 久々に奥さんに会ったらそのザマって何よ!?」
「と、言われマジデも体調が戻ラナイですシ……。彼女ヲ娶った覚えモありまセンし……」
「そう言うこと言うから、浮気だなんだって騒がれてそんな目に合うのよ! もういいわ、黙っててっ!!」
そう言って怒鳴った声に、蝶蘭は視線を向ける。
テントの奥にでんっと座った大きな羊にもたれかかっているのは、黒い毛並みの狼の少女なのだが、その威厳に満ちた態度と美しさは、どこかの部族長の娘かもしれない。
よく見ると狼の傍らには、木製の龍の彫刻が置かれていた。龍は幸せの象徴である。
そんなものを呑気に傍らに置いた狼は気に食わないし、なによりも、幸せの象徴そのものが気に入らなかった。
生きているなら是非ともその喉元を噛み切って、その肉をズタズタに引き裂いてやりたいが、どんなに見事に掘られていても木目の浮いた彫刻だ。
蝶欄が威嚇するように唸ると、包帯男と狼は一瞬の間と共に大笑いした。
「何がおかしいんだ!」
「失礼、ヒさビさの職場復帰ダっダノデ、づぃ……」
「だってあなた、年寄りみたいな姿なのに、そんな可愛い声で唸るんですもの!」
笑いを収めて謝る包帯男の声を遮って、狼が高笑いする。
確かに、生まれてもう一年経つとはいえ、その外見は大人というよりも十年は生きた年寄りのようにくたびれている。
そうなったのは、蝶蘭のせいというよりも、苦しい生活のせいだった。
「黙れ小娘!!」
走り出した蝶欄は、包帯男の隣をサッと横切り、笑い続ける狼目掛けて飛びかかる。
仕留めた。
絶対に避けきれないだろうと思った刹那、先ほどまでぼんやり彫られていただけの龍が動き出し、蝶蘭に体当たりした。
おかげで弾き飛ばされた蝶蘭は強かに背中を打ち、横ばいに倒れる。
「大丈夫デヅか?」
包帯男が駆け寄り抱き起こそうとするのを威嚇して自力で立ち上がると、蝶蘭は叫ぶ。
「どうして生きてるんだ!!」
幸せの象徴の癖に、それだけで愛される存在の癖に、誰かを護るために動き出すなんて酷い裏切りのように感じた。
「あら、あたしのパッセンジャーに対して酷い言いようね。あなたこそ、何様のつもりであたしに襲い掛かったわけ? 名前も知らない相手に恨まれるようなことはしてないと思うのだけど」
「ニア・オア・クレアの名は最近良く使っデマスしネ?」
「あら、それはこの前までの名前よ。今はレイよ。こっちの方が薄倖の美少女っぽくてなんだか素敵でしょ?」
「はハはハ」
ひとしきり笑った後、レイと名乗る狼がゆったりとした態度を崩さずに、蝶蘭を見た。
「それで、あなたはなんてお名前なの? おばあちゃん」
「乾 蝶蘭! こう見えてもピッチピチの一歳だ!!」
レイの軽口に牙を向けると、レイはつまらなさそうに欠伸をする。
「蝶蘭、あなたってばどう見てもおばあさんよ。それは見た目がじゃなくって、自分の殻に閉じこもって最期には誰にも看取られず死んでくタイプの意地悪婆さんに心がそっくりって言ってるの」
ずけずけと言うレイに蝶蘭がまた襲い掛かるも、今度は上空から何かの尾が垂れて、それに弾き飛ばされる。
宙をきりもみしながら暖炉に当たりそうになったところを、包帯男が体を張って助けてくれた。
「手加減しておあげなさいな」
レイの言葉に天井に浮かんだ大きな黒い魚のようなものは、じっと蝶蘭を見ただけで、くるりと背中を向けてしまった。
むしろ、レイの傍らにいる龍が鼻息荒く首を横に振って、まるでもっと蝶蘭を懲らしめれば良いという風に、宙に浮いた魚に向かって鳴いている。
「放しやがれっ!!」
蝶蘭を抱きかかえた包帯男に怒鳴ると、包帯男は苦笑しながら蝶蘭を放した。
「そういう態度がおばあさんだって言ってるの。あのね、助けられたなら"歪み"相手でも"ありがとう"ぐらい言いなさいよ」
「ふん、何も知らない小娘に言われたくないね!」
首を横に振ると、レイは僅かに目を細めて笑う。
「あたしは確かに見た目も可愛いし、どこからどうみても素敵な女の子だと思うの。でも、それはあたしが、あたしをそういうものだと信じて、女の子らしく振舞っているからで、なんの努力もしていないわけじゃないのよ。だって、こう見えてもあなたの倍は生きてるんですから」
「へ?」
驚いた蝶蘭の隣で、包帯男が呟く。
「倍の前にどれだけ0を従えた1があるんですか」
「そこ煩いわよ。乙女は年齢じゃなくて心で勝負っていう、ありがたいお説教の最中なんだから!!」
その言葉に蝶蘭は大声で笑った。
「バーカ!! どんな奴でも100歳以上は生きられないんだぜ!! 嘘を吐くにももうちょっとマシな嘘を吐けよ!!」
言った瞬間、蝶蘭の体は跳ね飛ばされ、後ろの分厚い布に当たって跳ね返り床に転がったところを、上から押さえつけられる。
「お嬢ちゃん、あたしは嘘を吐くのが大嫌いなの。だから、できるだけ嘘は吐かないように生きてきたわ。今も、あたしは何も嘘を吐いてないのに、あなたはわたしを疑った。あなたが今ここで死んでも、それはあなたの過ちで、しょせんそれまでの命だったことになるのよ。でも、謝れば許してあげなくもないわ」
自分よりも小柄だし、華奢な世間知らずの娘だと思っていただけに、予想外の力で押さえつけてくる前足に蝶蘭は短い悲鳴を上げる。
「誰がっ、謝る、かっ!」
跳ね除けようと体に力を入れたがダメだった。
次の瞬間、レイの口が開き、縮こまった蝶蘭の首目掛けて下ろされる。
やられる!
そう思って目を瞑ったが、牙に引き裂かれる痛みはなかなか来なかった。恐る恐る目を開くと、レイの口を包帯男が押さえている。
「にゃにしゅんのよ、ばひゃ!(なにすんのよ、馬鹿!」
「お客様ニ、暴力ハ振るわナイ。ソレがこの"場"ノ決まりデス」
その言葉に、レイは心底腹立たしそうに包帯の巻かれた顔を睨み付けた後、体を揺すって男の手から逃げると、羊の傍へ戻った。
「不幸な顔した山犬一匹、殺したところで誰も哀しんだりしないわ。どうせ、敵だと思って威嚇したのはそのお嬢ちゃんからなんだし、ね。でも、今回は包帯馬鹿に免じて許してあげる。お嬢ちゃんも、その馬鹿に感謝しなさい。二度も助けられたんだから」
フンっと鼻を鳴らしてそっぽを向いた少女に、蝶蘭はまたも怒りを露にしたのだが、その背を優しく撫でられて視線を逸らす。
「どうしてオレを助けたんだ?」
「とても、辛そうナお顔ダッタのデ。ヨロシケレバ、どうしてソンナ苦しそうなのかお聞かせクダサイ」
笑いながら優しく撫でる手が心地よくて、蝶蘭は礼の代わりに自分の身の上話を話す気になった。
もしかしたら、包帯をして痛々しいこの男の姿に、同情したのかもしれなかった。
「オレは見ての通り、歳に合わない姿をしていて、色々な奴らから嫌われてる。それは、同じ山犬だったり、人間だったり、鳥だったり、虫だったり、とにかく色々な奴らだ」
そのせいで半年以上前に群れを追い出された。
それからはまだ狩りもろくに上手くもないながらに、鳥や兎なんかを仕留めては命を延ばしたが、そういう苦労のせいでさらか、あるいは別のせいなのか、外見は更に歳をとってしまい、今ではこのような年寄りのものとなっている。
この姿のせいもあるが、仲間を食うということで、鳥や虫には嫌われる。
人間達とは、もともと山の連中自体があまり協力的じゃないから、その中でも特に蝶蘭のような奴には白い目をして追い払おうとした。
人間の町では、人間の子ども達に石を投げられて追いかけられることもしばしばだった。
だから今は「孤独こそ我全て」と思って生きている。
唯一信じられるのは、蒼というレストランのシェフで、人間の子どもに追われているところを助けてもらった。
それから、レストランの肉の調達の手伝いをして、それなりに金を溜めている。
だが、シェフ以外は信じられない。
シェフ以外の奴等は、いつ裏切るかわからないし、いつだって蝶蘭を憎んで追い払うのだから。
「そうですか」
話し終えた蝶欄に、包帯男は真摯な眼を向けている。
それは、憎しみではなかったが、哀れみでもないような気がした。
「それで自分は不幸だから、他人なんて信じられない、自分が一番不幸って顔をするわけ?」
そう言ったのは、もちろん羊に寄り添った狼、レイだ。
「あなたより不幸な奴っていっぱいいるわよ。たとえばこの前やってきた二人」
そう言って、レイが僅かに顔を歪める。
「片方は、争いに巻き込まれずに安穏と暮らす自分が幸福を抱くことを不幸と思っていたけれど、とうとう戦争に巻き込まれて友達を目の前で亡くしてしまってから、過去の幸福を思ったわけ」
不幸ってより、馬鹿な奴って感じだな、と蝶蘭は思った。
「片方は、理由があったとはいえとことんマイナス思考で煩い男だったけど、マイナス思考が治るかわりに、とても良い耳を手に入れてしまって、想像の中に響いていた陰口を、実際にその耳で聞くようになってしまった。おかげで、いつでも口を閉ざし、黙りこくって生きてるらしいわ。まるで誰にも相手にされず忘れられる日を待つように」
それは確かに辛い。蝶蘭自身、悪口を言われ続け、嫌われ続けてきたのだ。その苦しみは分かる。
だが、だからと言って他人を信じられるかどうかとは関係ないではないか。
「でも、二人とも、不幸の中にあってなお誰かを信じていた。それは沢山の相手じゃなかったとしても、信じれる相手がいることで救われた部分はあった。笑える一瞬が、長い沈黙さえも吹き飛ばしてしまうのを、あなたも知っているでしょう?」
寂しげな瞳でレイが尋ねてきた言葉に、蝶蘭は頷いた。
蝶蘭にとって、長い孤独の中にふっとした笑いを与えてくれるのは、蒼のシェフである。
「あー、なんか、何言ってるのかわかんなくなってきた。ってか、もう、不幸とかそーいうの飽きたのよ! とにかく、蝶蘭、不幸だー不幸だーって思ってないで、ちっとは自分から近づく努力ぐらいしなさいな! 誰にだって、幸福ってのは訪れるものなんだから!」
逆切れしたレイに、包帯男が何か怒鳴ろうとした瞬間、分厚い布が垂れ下がる音がした。
見ると、幕の一辺に出入り口ができていた。その先にはシェフらしき人間の影。蝶蘭を招くように笑っている。
「さ、幸福に向かって走ってこーい」
レイが後ろからそう言って、立ち上がった蝶蘭の尻尾を噛んだので、蝶蘭は痛みから走った。
外へ出ると、オーナーの姿は無く、いつも通りの自分のねぐらだった。
蝶蘭は疲れた体を起こして、溜めていたお金を見る。
「これだけあれば、足りるかな」
蝶蘭はそのお金を持ってねぐらから出る。どうしても、客としてあのシェフの料理を食べたかった。
そうして溜めたお金がこれだった。いざ溜めると、なかなか使えなくなったが、あんな夢を見たせいだろう、使いたくなった。
蝶蘭はお金の入った袋を首に掛けて走り出した。




曇天の中、一人の男が穴を掘っている。
その姿を見かけた黒い狼が男の隣へやってきた。
「何をしてるの?」
その声に男は顔を上げる。
「顔なじみの山犬が死んだんでね。そいつの墓を掘ってるんだ」
ふーんと言った狼は、墓堀を手伝う。
「あたし、そのお嬢ちゃんに用事があって来たのだけど、死んでしまってると思わなかったわ」
残念そうな声に、男は泣くまいと険しくなった顔を歪める。
「蝶蘭と知り合いか」
「偶然お話する機会があったの。ところで、お嬢ちゃんはどうして死んだの?」
狼の言葉に、男は聞こえるか聞こえないかというほど小さな声で答える。
「昔いた群れの連中にやられたそうだ」
掘り終えた穴に横たえられた体は、その言葉通り、あちらこちらに爪や牙の跡がついていた。特にその腹は無残なものだった。
「そう」
狼はそれだけ言うと、蝶蘭の屍に鼻を寄せて首に絡まった紐を咥えると、顔を上げて土をかぶせるのを手伝った。
みすぼらしい墓ができると、男は狼に尋ねる。
「蝶蘭にどんな用だったんだ?」
「これをもらいにきただけ」
そう言って示した紐を男が触れようとすると、狼はさっと逃げる。
「ダメよ。これは不幸なものだから」
「くっ……」
膝を突いて泣く男に背を向けた狼は、一度だけ振り返る。
「蝶蘭は、あなたのことを心底信じてたから、そうやって泣いてあげるのが一番の思いやりだと思うわ。思い出の中の彼女を大切にしてあげてね」
男が顔をあげると、そこにはもう狼の姿はなかった。


「こういう結末は嫌いよ。だって不幸すぎるもの。あたしの趣味じゃないわ」
泣きながら羊の隣を歩く狼に、木目の浮いた龍は気遣うようにその頬に擦り寄る。
「あら大丈夫よ。心配しないで。このおつかいが終わればあたしも自由になるんですから」
そうだ。"歪み"はもう、店に立てるようになった。仕事はこれでおしまいだ。
狼が龍に寂しい笑いを返した瞬間、ガラスが壊れるような甲高い破砕音が響き渡る。
驚いて音の源、前方を見た瞬間、突風が三匹に襲い掛かった。
三匹が身を寄せると、その上から平らに広がった鯨が覆いかぶさる。それはまるで、気を抜けば吹き飛ばされそうな風を耐え忍ぶ分厚い暗幕のようだ。
風が収まると同時に、轟音のような笑い声が当たりに響き渡る。狼は青ざめて、鯨の暗幕を払いのけ走り出した。
すぐに声の主を見つけると、狼は叫ぶ。
「誰よ!! "歪み"に名前なんて与えた馬鹿は!!」
絶望的な声で叫ぶ狼の傍らに、いつか見た青銅製の竜が飛んできて、奪い取るように紐を受け取って飛び上がる。
そのまま高度を上げて、笑い声の主の口の中へと飛び込んだ。
体中を眼に見えない鎖で縛られた笑い声の主は、その巨大で禍々しい竜の姿のまま、狼を見下ろす。
『おつかいご苦労様でしたね"気紛れ"。おかげで、少しお腹が膨れました。それと、私の名前は"ヴェルシーファ"です』
轟々笑う竜に、狼が睨む。
「あたしの名前は"レイ"よ。それより、あなたに名前を与えてしまったお馬鹿さんが誰だか見当がついたわ。あなた、名前を貰うために彼女を生かしたの?」
『まさかっ! これでも本当に愛していましたよ! まぁ、確かに、少しは名前を欲しくて、つかいの男に頼ませましたけどねぇ』
さも可笑しそうに笑う竜に、レイは頭が痛むのを感じた。
最初からそのつもりで、彼女を生かし、彼女が"狂気"に殺されないよう彼等を仕向けたわけだ。なんて嫌な奴だろう。
レイは気分の悪くなるのを感じて背を向けた。
「たとえ名前をもらって、その鎖が外れたとしても、すぐに新しい鎖で縛られるわよ。それまでの短い自由をかみ締めなさいな」
『えぇ、そうしますよ。いままでお手伝いありがとうございました』
「どういたしまして」
いつの間にか走り出した狼とその三匹の従者は、瞬く間にどこかへ消えてしまった。


死んだ山犬の首に巻かれていた黒い紐は、元は血に濡れた赤だった。
しかしその上から沢山の黒い言葉が重ねられて、とうとう黒くなってしまっていた。
彼等には見えないその黒い言葉は、しかし彼等が叫んだ言葉であり、これからも誰かに向かって放つだろう言葉。
「純血であるが故に子どもを産めない、役立たずの雌は呪われて死んでしまえ」



名:乾 蝶蘭
読み:いぬい ちょうらん
年:ピッチピチの1歳ですv(黙れ)
外見年齢:生まれてから10年は時が経っていると思われる。
性:♀
種:純血の山犬
世:人と化け物が共存しつつ争いが絶えない世界・山
職業:肉の調達。蝶蘭は蒼専属の肉屋(?)で、その辺の動物を狩って届ける。
店:蒼(あお)というレストラン。店のシェフと知り合い。美味いハンバーグとピザとグラタンがある。
性格:男言葉しか使わない。これと決めたら一直線。心に誓った事はやり通す。蒼以外の「生き物が集う場所」には近づきたがらない。
不幸要素:以前、群れから追い出された為、「孤独こそ我全て」という寂しい犬生を送っている。人間や虫や鳥からも嫌われている(シェフは別)。
備考:群れから追い出された原因は、老けて見えるから。と思っているが、実際は、血が濃すぎて繁殖させられないため。
店主:貴様
第一印象:木製で、東洋龍の彫刻。蝶乱の世界では、龍は幸せの象徴。彼女は、一目見て「気に入らん。殺す…!」と殺意(嫉妬?)を抱いたらしい。


キャラクター提供元 : 竜龍 様



最終更新日 2005/05/13
感    想 蝶欄さんより店主の方がやたら目立ったこの回。
        もっと複線らしく留めておけなかったのかと悩むところ。
        書き直す機会があったら、今度はもっと蝶欄を苦しめたいです。