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私達は社会というからくりを担う一つのネジだと誰かが言っていた
そうならば私達が望んでいる個人主義は一体どこへ行ってしまうのか
私達は皆同じものから出来ていると誰かが言ったけれど
そうならば私達は不公平で理不尽な事柄に耐え忍ばなければいけないのか
西の果て、太陽の落ちる場所に程近い島の一角に、長老竜達は集まった。
炎の長老竜は松明の火を利用し、この島へ意識を飛ばしている。
人型に化けているが、朝日色の髪と夕日色の瞳のふくよかな淑女は大変不機嫌だ。
目に痛い鮮血色のドレスは腰を膨らますタイプで、体をより一層大きく見せている。
水の長老竜もまた銀の杯に盛られた水を利用して意識を飛ばしている。
こちらも人型に化けており、青緑色の髪と深海色の瞳が印象的な筋骨逞しい男性…で、神妙な面持ちをしている。
お臍の覗く可愛い半袖とボディラインを強調したスパッツ、そしてシャラシャラ煩い腰布は、海の娘さん調だ。
風の長老竜は本体がこの地に赴いており、姿は人間に帰化した弟の姿を使っている。
朱子織の布をふんだんに使った装飾華美な服装は、細かな刺繍で飾られ更に派手だ。
普段の薄笑いはどこへやら。居心地悪そうに襟首をしきりに直している。
連絡用に地上へ残していた要素を利用してやってきた闇の長老竜も人間に化けている。
黒髪の老人は、背筋も良く伸びて後ろから見ただけでは若者となんら変わらない。
茶色とチェックの鳥打帽と、生地違いの茶色いディットーズとズボンに、
黒い丸眼鏡というこ洒落た服装だが、この面子の中ではちっとも目立たない。
各自勝手に生み出した椅子に腰掛け、口を閉ざしお互いの顔色を伺う。
「ごめんなさい。」
か細く、覇気のない声に全員の視線が声の主に集中する。
赤茶色の髪と黄土色の瞳の壮年の女性は、煤けた作業着と厚い手袋をしていてみすぼらしい。
フラフラとした足取りで円陣の開いている場所まで歩き、足元から岩を呼んでその上に腰掛ける。
病気にかかっているようで、肌が青白く呼気は荒い。髪は乱れ、瞳も濁っている。
「いいえ。あたくしが長老会を開きたいと言ったのですもの、地の長老竜が気にしなくても宜しいのよ。」
「ありがとう。」
炎の長老竜が隣に座る女性にそっと頷く。
地の長老竜は弱弱しく微笑んで、他の面子を見た。
「あたしのことも気にしないでね☆」
「くすっ。ありがとう。」
水の長老竜が冗談っぽい笑顔でウィンクしてくれたので、これにも地の長老竜は微笑み返す。
「暫く見ない間にまた顔色が悪くなったみたいだけど、大丈夫かい?」
風の長老竜が、薄笑いを浮かべて問いかける。
「えぇ。お仕事に支障をきたさないていどには、どうにか。」
地の長老竜が苦笑いをして頷き、咳き込む。隣に座っていた炎の長老竜と、その向こうに座っていた水の長老竜は「大丈夫?」と声をかける。
彼女は小さく頷き「だいじょうぶ。」と囁くように答え、右隣に座る闇の長老竜へ顔を向ける。
闇の長老竜は軽く会釈して帽子を取る。
「…今日は新月だから、ワシの役目もないのでな。」
そう言って黒塗りの眼鏡の位置を整える。眼鏡の色が濃すぎて瞳の色はわからない。
だが、気まずそうな顔であることは確かだ。
「そうですか。」
地の長老竜は、冷めた瞳で答えると、隣に座った炎の長老竜の方へ体ごと顔を向ける。
背中を向けられた闇の長老竜は、小さく溜め息を吐いた。
「ところで炎の長老竜、わたしを交えての長老会なんて、いったいどういうことなの?」
炎の長老竜は向かい合った席に座る風の長老竜をちらりと見る。
「実はね、あたくし、風の長老竜に大きな疑いを覚えてしまったの。」
地の長老竜が、視界の端で風の長老竜を捉える。
「私に何か?」
風の長老竜が首を傾げてみせると、炎の長老竜は怒りを露にした。
「貴方があたくしの孫を利用していることは先刻承知なのよ!!
それに貴方、ここ最近、夜はどこか大地の無い場所を飛んでらっしゃるでしょう! それは一体何故!?」
この言葉に場が凍りつく。
地の長老竜が煤けた分厚いエプロンを握り締めて風の長老竜を見つめ、
水の長老竜は両手で口を隠し風の長老竜と炎の長老竜を交互に見る。
四人が顔を見合わせていると、闇の長老竜が口を開いた。
「つい先日には、後継者であるプレッツリヒも地上に落とした。その前から光の竜ラスヴェータとも接触しているようだが。」
風の長老竜は、忌々しげに闇の長老竜を睨み、口を開こうとした瞬間、別の所から声が上がった。
「つまり、あなたは傍観したままで、いっさい忠告をしなかったということでしょうか?」
背中を向けていた地の長老竜が向き直る。
「それとも、あなたも風の長老竜に加担していたんですか?」
闇の長老竜は首を横に振る。
「いいや。確かに忠告はしなかったが、それは他の長老竜諸氏の知るところだろうと思ったからだ。彼とは何の接触もなかった。」
老人の言葉に、水の長老竜が割ってはいる。
「じゃあ、貴方は見ていたんでしょ? 風の長老竜がどこで何をしていたのか! 光の竜と何を話したのか!」
「それは…」
「闇の長老竜殿! 貴方の方こそ隠していることがあるのでは!?」
風の長老竜立ち上がり、闇の長老竜の言葉を塞いだので、全員の視線が彼に注がれる。
「ジェラーニヤの記憶は戻っているのではありませんか? それも、古い記憶まで。」
闇の長老竜が顔を上げて風の長老竜を見る。
「ジェラーニヤではない闇の竜の記憶もあるみたいですよね? アレはどういうことですか?」
僅かに眉根を潜めたが、闇の長老竜の顔色は変わらない。
「本当ですか? 闇の長老竜。」と、地の長老竜。
「知っていらっしゃたのでしょう!?」と炎の長老竜。
水の長老竜だけは傍観を決め込んでいるが、その瞳は明らかに闇の長老竜を非難している。
「直接本人に確認はとっていない。だが、複雑に意識が絡み合っている事は確かだ。」
曖昧な答えに、誰も納得した様子はない。
「…本当にわからんのだ。アレがジェラーニヤなのか、クロなのか、…別の闇の竜なのか。
一つ一つの記憶はしっかりしているようだが、一つの体を取り合って誰が主体なのかワシにもわからん。」
闇の長老竜が険しい顔で答えると、炎の長老竜と水の長老竜は認めたが、地の長老竜は納得がいかない様子で両手を胸の前で組む。
「ところで、話題をすっかり変えられてしまったけれど、風の長老竜は一体何を目論んでいるのかしら?
過去の光の竜との争いの時に企てていた事をまたやろうとしているのかしら?」
炎の長老竜の言葉に、風の長老竜の顔が引きつる。
(まずい…。まだバレるわけにはいかない。)
風の長老竜が他の長老竜達を見る。
「違うだろう。」
闇の長老竜の発した以外な言葉に、風の長老竜も驚く。
「光の竜との会話を全て聞けたわけではないが、どうやら光の竜に力を借りて世界を変えるつもりらしい。」
他の四竜が落ち着くのを待って、闇の長老竜が言葉を続ける。
「つまり、六竜の力で、地上と"我々の地"とを別にする方法を行おうとしたわけだ。
六竜の力で世界を二つに分ける、少々荒っぽいが、今考えている地上との別離よりも、その後の経過が楽な方法だ。
完全に地上と分かれる事ができるからな。それも、竜だけではなく、古き友等も一緒にだ。」
これに喜んだのは水の長老竜だ。
「ステキ! そうすれば、あたしのお友達を連れて行くこともできるわけね!?」
そう言って髪飾りの珊瑚をそっと撫でる。
「うむ。しかも、長老竜が個々に請け負った自然の運行もせずに済むようになる。」
「つまり、あたくしは毎朝太陽を掴まなくて良いのね?」
炎の長老竜の言葉に闇の長老竜は頷く。
「どうして、それを最初に言わなかったんですか?」
ぞんざいな物言いだが、地の長老竜もこの案に賛成気味のようだ。
「ワシは口下手だからのぉ…。それに、これを考えたのは風の長老竜だ。
だから光の竜に多少助力して、力を借りる約束をつけようとしたのじゃろう?」
闇の長老竜の問いかけに、風の長老竜は無言で頷く。否、反論することができなかった。
黒塗りの眼鏡からちらりと覗いた、緑がかったレモン色の瞳が有無を言わせない眼力を放っている。
(何を企んでいる? 闇の長老竜。)
確かに闇の長老竜の言った言葉も真実だが、それ以外にも風の長老竜には企みがあった。
闇の長老竜ならば、その企みぐらい検討がついていそうなものである。
それにも関わらず追求しないところをみると、あちらも何か隠しているのかもしれない。
「私は、自分の力で色々とやるのが好きなんですよ。それを企てているみたいに取られるのは残念です。」
風の長老竜の言葉に、三竜が笑う。
「だって、貴方はいつまでも重要な事を話そうとしないんですもの。」と、炎の長老竜。
「やっぱり出来る男ってステキだわ!」と、水の長老竜。
「わたしも誤解していたようです。世界全体をおもってのことならば、たしょうの問題行動にも目をつむりましょう。」と、地の長老竜。
「もう計画がバレてしまったからには、皆さんに力をお借りしたい。宜しいかな?」
風の長老竜が苦笑して会釈すると、四竜は頷いた。
会議が終わり、闇の竜と風の竜が去った後、残った女三人(?)は辛い顔でお互いを見た。
「あたし達は長く生きたもの…仕方ないわよね。」
水の長老竜が悲しげに足元を見る。
「夫に先立たれた今、唯一の楽しみだった孫ももう大人だし、我慢しなけばいけませんわよね。」
炎の長老竜がハンカチで目頭を押さえる。
「でも、地の長老竜は本当によろしいのかしら? 貴女は若い夫もいらっしゃるし、幼い子供もあるでしょうに?」
炎の長老竜の言葉に、顔色の悪い地の長老竜が首を振る。
「夫も子供も生きていられるなら、わたしはがんばります。だって、地の竜はもうわたし達しかいませんもの。」
悲しそうに笑う地の竜。
唐突に大地が揺れ、のっそりと巨大な生き物が顔を出す。
「会議は終わったかい?」
男の声に地の長老竜は頷いて、頬を染める。
「終わりましたけど、まだ炎の長老竜と水の長老竜がいるのよ?」
「あたくし達の事は気にしなくてよろしいわよ。お久しぶりね、ソイル。」
「は〜いソイル☆ お元気?」
「お久しぶりです、炎の長老竜、水の長老竜。」
炎の長老竜がにこりと微笑みかけ、水の長老竜が大きく手を振ると、巨大な生き物は恥ずかしそうにその場へ伏して小さくなる。
少しすると、三人の前に歳若い男が現れた。腕の中にはとても小さな子供が抱えられている。
「マミィ、おはなし終わった?」
子供は男の腕から抜け出して、地の長老竜に抱きつく。
「えぇ。だけど、お客様の前ですよ?」
優しくたしなめると、子供は顔を赤らめて慌てて母親から離れて、炎の長老竜と水の長老竜の方を向き挨拶する。
「こ、こんばんは!」
「こんばんは。小さいのに挨拶ができるなんてすごいわね。」と、炎の長老竜。
「あらぁん、可愛い坊やこんばんは☆」と、水の長老竜。
子供がちょっと逃げ腰になると、水の長老竜は口をへの字に曲げる。
「失礼ね。これでも独身よん? 傷ついちゃうっ!」
これには周囲の成竜達が苦笑した。
久しぶりに集まったということもあってか、話が弾み、いつのまにかお互いの家族自慢になった。
「あたしの姪っ子の孫が子供を産んだんだけどね、この仔がおてんばなお嬢ちゃんで、夜になってもなかなか眠らないって嘆いてたわ!
だけど、とっても可愛い女の子なのよ? そう、目に入れても痛くないぐらいにね!」
確かに、体格差から言って、目に入れてもゴミ程度にしか感じないだろう。
ヴェルナーは自慢げに言うが、独身の為に家族の範囲が広いようにも思える。
「あたくしのたった一人の孫だって可愛いものよ。よく失敗もするけれど!」
「あぁ、あのおチビさん! ヴィスヨールイだっけ? 若いからお化粧のノリが良かったわぁ☆」
「あたくしの孫に何をしたの?」
ちょっと顔が引きつる炎の長老竜。
「以前会った時はとても小さかったけれど、もう大人になったのかしら?」
そっと話題を逸らす地の長老竜。
「そうなのよ! 聞いて! あの仔ったらとうとう繁殖期に発情するようになりましたのよ。
でも、今年の秋が初めてだから、品性がなくなってしまって恥ずかしいことこの上ありませんわ。」
炎の長老竜が深い溜め息を吐く。だが、その顔は孫が可愛いくて仕方ないと言っている。
「ねぇ、ダディ! "はつじょーき"って何?」
地の長老竜に抱っこされていた子供が、父親の顔を見る。
父親は咳払いをして、地の長老竜と顔を見合わせる。地の長老竜は苦笑しながら子供を見る。
「大好きな方とずっと一緒にいたいとおもうようになる季節のことです。」
「じゃあ、ぼくも"はつじょーき"だね!」
この言葉に、その場にいた全員が噴出す。
大人達の反応に腹を立てた子供は、頬を膨らませてこう付け足した。
「だって、ぼく、マミィとダディとずっと一緒にいたいって思うもの!」
子供の言葉に、男は笑ったが、長老竜達は苦い顔でお互いを見合った。
会議が終わったのを良いことにさっさと逃げてきた風の長老竜は、空の端で止まる。
「闇の長老竜、聞こえていますよね?」
風の長老竜の言葉に、闇色の空は何も答えない。
「黙するおつもりですか。わかりました。このまま話します。」
風の長老竜は、空を睨みながら言葉をつむぐ。
「貴方は知っているはずだ。私が何を望んでいるのか。私が世界の本当の果てまで行っていることだって気付いているでしょう?
それなのにどうしてかばったりしたんですか? 何を企んでるんですか?
いいえ、それ以前に、今ジェラーニヤの体に宿っている者は誰なんですか?
よく知っている闇の竜のような気がしてならない…。でも、彼は死んだはずだ。
光の竜に喰われて死んだはずですよね。これは一体どういうことなんですか?」
まくし立てるように一方的に言葉を吐いたが、闇夜に光る星々も答えを返してはくれない。
「貴方は何を隠しているんだ? 炎の竜のヴィスも気付き始めている。光の長老竜の代わりについて。
結局、彼を殺したのは貴方だ。貴方がこの世界と光の竜との間にどんな術を掛けたのか…私達も知らない。
どうして私達は、彼亡き後も生き続けていられるのですか?
貴方は一体、"何"をしたんだ?」
睨み付けた天井は暗く、圧迫感を感じる重たい闇が垂れ下がっている。
「答えてください!! 闇の長老竜!!」
しかし何も答えは返ってこない。風の長老竜は嫌気がさして、東へと吹いていった。
「答える気はない。まだな。お互い様だよ、小童。」
闇の長老竜の声が聞こえた気がして、風の長老竜は辺りを見回したが、やはり空は星以外に明かりのない闇夜だった。
最終更新日 2007/01/13
感 想 長老竜達にもしがらみってのがあるらしい。
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