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盟約を履き違える事はないが 古い時代の約束は"今"にとっては振りだ
策略を巡らせるうちに頭が混乱して 無意味な事に走ることもある
秩序を乱すのは愚か者なのか それとも心に重りを持った者なのか
己の全てをかけてくだらない舞台を踊り 力では消えない傷を忘れる
プシニーツァが古い盟約を出してきた事に、カローヴァ国は驚いた。
プシニーツァ王の頭は悪くないが、そこまで知恵の回る男だと認識していなかっただけに、余計に困惑したというのが事実である。
約一ヵ月後、満月の日に、三国の長が刃を交えると伝えられた時も、驚きばかりでその先が見えなかった。
とりあえず、猶予は一ヶ月。
戦場に連れて行ける兵士は3000人。その中の一人はもう決まっている。王自身だ。非戦闘員の数も上限がある。
王佐の傀儡として国内外に知られているカローヴァ王は、この七面倒な事柄から逃げ出したくてたまらなかった。
というのも、三国国王の中で一番戦闘に向かない男だからである。
プシニーツァ王は、戦事に長けており、武人としてまた軍師として頭の回る男だ。
それはプシニーツァ王家の血筋らしく、かの国の有名武将の多くは王家の血筋である。
対するパーズドビシャの前王は、多少老いてはいたが、戦場にでればかなりの武功をあげるつわものであった。
その子供である王子達も、なかなかの腕前だったと聞く。
今はその後釜に、連戦連勝とさえ歌われる傭兵上がりのノーミルが就いている。戦歴は一番だろう。
そこ行くと、カローヴァ国王は戦争に不向きなタイプだ。
まず、30代前半であるにもかかわらず、小柄デブでハゲというのは致命的だ。
頭部が脂汗でてっかりしているのである。
次に、幼少の頃から運動音痴で、馬に乗れるようになったのは王佐である姉よりも遅かった。
最後に、戦歴は低く、敵を殺したことはない。いつも見ているだけだった。
そんな究極的に戦争とは無縁の国王をどうすべきかと考えた結果、カローヴァは精鋭3000人を国中から集め、
なおかつ非戦闘員も戦場慣れした人物を採用する事にした。
多少王族の生活には不便かもしれないが、それだとて命と秤にかければ安い話だ。
とりあえず、国王には逃げ切ってもらうことを前提に、お情け程度の護身術講義を受けてもらっている。
さて、ここで問題なのは、誰が強いのかをどう量るかだ。
そこで王佐が考えたのは、ちょっとした武術大会の開催である。ちなみに、カローヴァ軍人は強制参加だ。
「異国の剣士とヴィスは軍人登録をしていないが…決定枠に入っているらしい。」
武術大会の召集令に添えられた書状の一つを読み解きながら呟くアターカ。
はっきり言ってつまらなさそうだ。
「アターカは入ってないの?」
ヴィスの言葉にリベルテが小さく睨み付ける。
「入ってない。」
ぞんざいに答えるアターカに、ほっとした顔のリベルテ。
「そっかぁ。じゃあ、ボクと凰火さんは応援してるね!」
突然話題に引き込まれた凰火は、アターカの方へ向きなおる。
「俺ほどではないが、なかなかの腕前だからな。余裕で勝ち残れるだろう。」
凰火の言葉にアターカが気恥ずかしそうに「頑張るよ」とだけ答えた。
「ところでアターカ、リベルテはどうなるの? ボク、リベルテと一緒じゃなきゃヤダ。」
言われてアターカは頭を抱える。
失念していたが、リベルテのいないヴィスほど使えない代物がないことぐらい、先日ヴィントに誘拐された時に思い知っている。
しかし、リベルテが歴戦のつわものと戦って勝てるとは到底思えない。
筋は悪くないのだが、小柄な上に、弓も武術もアターカに習い始めてまだ日が浅く、兵卒にも及ばないだろう。
気まずい空気の中、リベルテはむしろ意地の悪い笑みを浮かべてアターカを見る。
「確か、貴方のお母様って王佐でしょ? あたしを非戦闘員の方に推薦してもらえない?
勿論、そうすればヴィスヨールイとオゥルカが逃げずに済むとかなんとか言ってね!
ってわけだから、オゥルカ、あたしが戦場へ行くためにも、カローヴァの命令、受けてくれるよね?」
アターカの同意を聞く前に凰火へと向き直る。
「…別に、構わないが…。」
歯切れ悪く答えたのは、恨めしそうにヴィスが睨んでいるからであって、戦場に行くのが怖いわけではない。
「ヴィスにも言ってやらんと、拗ねるぞ?」と、凰火。
「実際に拗ねてるしな。」こちらはアターカ。
二人の指摘どおり、ヴィスがしゃがみこんでいじけてる。はっきりいって邪魔臭い。
「ボク、やっぱり戦場に行かない。」
ヴィスの呟きに、全員が硬直する。
『ガキかお前はっ!!』
全員の心が一つになったが、ヴィスは首を横に振る。
「リベルテがボクのお願いきいてくれるなら良いよ?」
ちょっと顔を上げる。子犬が遊んでと言ってるような輝く瞳がリベルテを見据える。
「お願いって何?」
リベルテは内心、無茶なお願いだったらどうしようと思った。
例えば、空を飛べとか素潜りしろとかだ。リベルテは泳ぐのが苦手なので、本気で泳ぐという事態は避けたい。
暫く悩んだ後、ヴィスはスクッと立ち上がり、リベルテの前までやってきて彼女の両手をしっかりと掴む。
「結婚を前提に付き合おう!」
次の瞬間、アターカと凰火が爆笑した。
ヴィスの頬には真っ赤な平手跡。
教訓、TPOは守ろう。
カローヴァ国全体から一箇所に集めることもできないうえに、現在は他国との戦闘中である。
大々的な武術大会は現実的に考えて不可能なので、各地区ごとに武術大会を開くことにした。
強い者だけを集めたいので、カローヴァ軍内で1000人規模の部隊を動かす者とその補佐が対象となった。
傭兵の方は、最寄の役所にいるそこそこ腕の立つ騎士に勝った者が対象である。
ところで、こんな大会や儀礼的な戦に参加しようとする傭兵がいるのかという話になると思うが、
そこらへんは賞金を割高にしているので問題ない。
アターカのいる地区は、国境沿いであり、国内でもわりと戦いが激しい地区なので、日取りを決めるのが実に困難だった。
急ごしらえの武術大会管理委員会の方針はゆるく、日程調整も間に合わないということで、
管理委員の見届けの下、強そうな人同士で戦って、その地区で一番沢山勝った者上位10名を名簿に記載する事になった。
これには、弱い地区の勝者と強い地区の勝者の戦力差が問題視されたが、
そこらへんもカローヴァ内の混乱状態では考えるほうが悪いというものだ。
アターカは、なんとか管理委員会の人間と時間を合わせ、夕方からの試合に出る事となった。
ちなみに、アターカの副官や、部隊の凄腕も3人ほど登録している。
「部隊を放棄するようで気が乗らんがな。」
そう言いながらも、アターカは出場選手と凰火、ヴィス、リベルテを連れて、特設会場に向かった。
会場に着くと、今夜はこの地区内にいる軍人が勢ぞろいしたらしく、選手の半分は強そうなカローヴァ軍人である。
「参加できないというのもつまらないな。」
そう言った凰火は、フードを目深にかぶりなおした。
凰火もヴィスも、顔は知られてないとはいえ珍しい黒髪黒眼だと知られている。
もしもこんな場所で当人だとバレたら、試合そっちのけで腕試しを仕掛ける連中も出てくるだろう。
そこでアターカが行軍用の丈の長いコートを貸したのだ。これならばフードをかぶれば、頭からくるぶしまで見えなくなる。
似たような格好の奴は少なくないので、まず注意はひかないだろう。
「喧嘩は売るな、買うな。頼むから。」
アターカの言葉に凰火は仕方ないという顔で頷いた。
「アターカが最初に戦うのは誰?」
ヴィスが小首を傾げると、アターカは溜め息を吐く。
「最初は見ていても面白くないぞ?」
「どして?」
プログラム票をヴィスに突きつけるアターカ。だが、ヴィスは顔をしかめる。
「変なルールだね。殺し合い?」
ヴィスの言葉は要約しすぎだが、間違いではない。
最初は20人一組で素手で殴りあいをする。失神したら負け。最後に残った者が次に進む。
一応、同じ部隊同士で戦って遺恨が残っては困ると思ったのか、同じ部隊の者同士が同じグループに入ることはないようだ。
「ここで選手と観客は別れるらしい。武運を祈っててくれ。」
選手と観客を分けるロープが張られており、左側には、試合を待つ選手が群れをなしている。
観客は予想外に多いのは、戦時下で娯楽が少ない為だろうか。
「みんな頑張ってね! 全員負けたら倹約させてもらうから!」
部隊の財布番ことリベルテが手を振ると、苦笑気味にアターカ達が手を振り返す。やりかねない。
「悔いの残らないよう頑張れ。」
凰火の素朴な言葉にアターカの顔が緩んだのを見て、他の仲間が呆れ顔でアターカを見た。
ちなみに、ヴィスは凰火の為にプログラムを音読している。
暫く歩くと、各々一回戦に出るために散り散りになった。
アターカは自分の戦う場所がどこかとうろついている最中、自分の名前を耳にした。
「俺達はアターカと当たる…」
どこからかそんな声が聞こえてきたので、誰が話しているのだろうと見回す。
声の主は傭兵の一団に取り囲まれた、いかにも胡散臭い顔をした男であった。
相手はアターカに気づいていないらしいので、アターカは男に気付かれないよう会話が聞こえるところまで近づく。
「アターカを負かすなんて、並の男じゃできねーよ。どうするんだ?」
別の男が問う。
賞賛ではないが、こういう言葉は嫌いではない。実力が知られているのは嬉しい。
「大丈夫だって、相手は所詮女だ。束になって倒せば良い。」
胡散臭い男の言葉にカチンと来た。だが、束になってかかってきても倒す自信はある。
アターカがその場を離れようとした瞬間、あの胡散臭い顔の男がとんでもない事を言った。
「実はあんまり話にした事はないが、俺は昔あの女を犯したことがあるんだぜ?」
アターカの足が止まる。
まさか、ここにノーミルがいるはずもないし、今喋っている男がノーミルでないことはわかる。
「何年か前の話だが、あの女が寝てる所を犯してやったぜ。一応、その時の俺の隊長の名前を名乗っておいてやった。
処女だったのかもしれねーが、軍人は処女膜が落ちちまっててわかんねぇのよ!」
その言葉に、回りの男達が笑う。
アターカは胃に重たいモノを感じた。
子供はできなかったが、あの時の感覚は今でも時折思い出す。
その度に自分が嫌でたまらなくなるというのに、この男はそれを笑い話にしている。
しかも、自分が犯したという。嘘なのか、本当なのか。
「本当に、お前がやったっちゅー確証はあるんかねぇ?」
誰かの言葉に男は下卑た笑いを漏らす。
「やってる最中に傷つけられた。この左腕が証拠さ。」
そう言って左腕を見せる。そこには引っかき傷が綺麗に残っている。
アターカは確かに、その傷を作った覚えがある。
本気で爪を立てて、爪と肉の間に生暖かい液体と人肉が入る感触があったことを思い出した。
無意識のうちに剣を探したが、受付で剣を預かられたのを思い出す。
「ま、次の試合も俺が勝つさ。試合の後に敗北軍人と二度目の夜に洒落込むのも良いな!」
男の言葉に、アターカは短く呟いて、その場を後にした。
「殺す。」
第一試合が始まった。
リベルテ達の姿が見えないのは、第二会場となる空き地で場所取りをしている為だろう。
アターカはまず最初に手近に立っていた男を昏倒させると、男を盾に戦い始めた。
卑怯だという言葉を上がったが、すぐにその声は止む。
20人中13人がアターカめがけて走ってきたのだ。どちらが卑怯なのかわかったものではない。
委員が注意しようとしても、もはや声は届いていない。
アターカは盾にした男を放り投げて、進路妨害を謀る。5人が後ろに取り残され、陣が崩れる。
倒れなかった8人が3・2・3と組んで突っ込んできたので、少し楽ができた。
正面の男の顔面を強打し、男がよろめいた所を、左に突き飛ばす。左側にいた二人が巻き込まれてよろめく。
次に、右側の男の脛にローキックをかまし、痛がってけんけんしている最中に前へ出てきた一人の鳩尾を蹴り飛ばす。
後方の人間が巻き添えをくらったのを確認する前に、右側の男の首筋に手刀を打つ。これで3人昏倒。
左側の三人が両手をあげて走ってきたので、アターカは体を小さくして一番大柄小柄な男にタックルする。
小柄な男は小さく呻いてそのまま前のめりに倒れたので、回りの二人がアターカ目掛けて打った拳を背中に受けて昏倒。
男の下から、手前の男に足払いをかけ、倒れかけた男をひっぱって自分が立つ。
倒れた男の胸を踏みつけて、アバラが折れた音を聞きながら、もう一度襲い掛かってきた男の手を払い、そのままの勢いで喉を潰す。
男が痛みに膝をついたので、男の後ろから来ていた二人が躊躇する。
しかし、躊躇した隙にアターカの回し蹴りが炸裂。二人の頭部にクリーンヒット。
これで8人が戦闘離脱だ。アターカ狙いは残り5人だ。
周囲で個別に戦っていた者のうち二人が、アターカへの攻撃が不条理と見て、5人のうちの2人を相手している。
アターカは残る三人の一人に、あの胡散臭い顔の男を見つけると、息の上がった体に活を入れなおし走り出す。
胡散臭い男の前を残りの二人が走ってきたので、加速し右手の男にとび蹴りを食らわす。
そのまま男が胸を押さえて地面に膝をついたので、アターカは隣の男に飛び掛る。
地面を転がりながら、男の耳を思いっきりひっかくと、男は悲鳴を上げて手を離した。
そこで男の上に回りんで首を絞めようとしたところで、残りの一人がアターカの服を思い切りいっぱった。
慌てて右ひじで背後を攻撃すると、観衆も一緒になって「うっ…」と呻いて股間を押さえた。どうも悪いところに入ったらしい。
ともかく、男が手を離したので、改めて転がっている男の首を絞めて気絶させる。
すぐさま立ち上がり、痛がる男を見る。
「腐れ外道は約束の地を踏むに値しない!」
アターカが大声で怒鳴ると、男は悲鳴を上げて逃げ出そうとしたが無理だった。
アターカの強烈な回し蹴りによって地面に顔をこすり付ける。
男が立ち上がる前にアターカがやってきて、四つん這いになった男の首の付け根へ、重い踵落としをする。
鈍い音がして、男は泡を吹いて昏倒した。一応息はあるが、体中が痙攣していて、良い状況ではない。
他の選手は、戦いをやめて委員を呼んだ。
アターカに立ち向かうほど、愛国心も度胸もなかった。
後日談だが、あの男は数日後に他界したらしい。
さて、夕日の残り火とも言うべき赤みが消えた空の下、大会は絶頂の渦で終了した。
アターカやアターカ部隊の目覚しい活躍で、途中棄権をする選手が続出したのである。
残った選手は、血の気の多い者や、残らなければ困る軍人ばかりで、どれも命がけの戦いになった。
重症患者や死人が出なかったことが不思議である。
結果、この地区からはアターカとアターカ隊の4人、そして他にも軍人が3人に傭兵が2人ほど出る事となった。
「アターカおめでとう! かっこよかったよ!!」
試合会場の一番前からリベルテが大声で手を振る。その両隣でフードをかぶった凰火とヴィスが拍手している。
アターカは気恥ずかしそうに頬をかいて、三人に手を振り替えした。
丁度その時、この興奮にあてられたらしい観客が、リベルテの隣にやってきた。
「あんさんらも、そないけったいなフードかぶってないで、素直に喜んだらどうだい!」
よっぱらいのおっさんが、凰火とヴィスのフードを降ろした。
会場にはハプニングの神様が住んでいるらしい。
なんだかよくわからないうちに、凰火とヴィスは会場の真ん中へ引きずり出される。
アターカもリベルテも困惑した表情で二人を見つめる。
「というわけで、この際なのでお二人の演舞をお願いしてもよろしいですか?」
大会本部長の言葉に大喝采が起こる。
「オゥルカー! ヴィスー! こうなったらさっさと戦わないと暴動起きるよぉ!!」
リベルテの言葉にヴィスの顔がひきつる。
「やだよっ!! オゥルスカさん、本気なんだもん!!」
ヴィスが指差した先では、もはや試合開始を待つだけの凰火がいる。重苦しいコートは脱いでしまった。
「たまには骨のある者と戦いたかったところだ。」
この所の凰火は、正義心というのか、義侠心というのかを取り戻して、わりと真面目に戦っているが、
凰火に敵うこの世界の人間はいない。おかげで、凰火は久しく本気でサシの勝負をしたことがなかった。
ヴィスならば、本気でやっても大丈夫だろう。頑丈だし。
「うわぁーん!! なんかオゥルスカさんの目が怖いっ!!」
ヴィスが号泣すると、アターカが叫ぶ。
「諦めろっ! リベルテがもう賭け屋を始めた! 戦わないと絶交らしいぞ!」
隣にいたはずのリベルテがいない。どうやら本当らしい。
「リベルテ酷いよぉ!! うぅ…仕方ないや…オゥルスカさん、怪我しないように戦いましょう。」
"怪我しないように"をやたら強調しながら向き直るヴィス。
「怪我の一つや二つは男の勲章と思え。」
ヴィスが泣きそうな顔でコートを脱ぐと、内側には見慣れた武器があった。
「日本刀?」
凰火が眉をひそめる。
「ちょっと斧を使うにはここは狭いので、別の武器にしました。
それに、ボクは正式な訓練をあまりうけてなかったので、どの武器を使ってもあまり上手いとは言えませんからね。
あと、ちょっとだけこの刀に興味があったっていうのもあります。」
ヴィスがにこりと笑う。
その手には、炎色の刀身をした日本刀が握られている。凰火のものよりやや短いが、切れ味は良さそうだ。
ベルトには、鞘と脇差が括られているが、服と似合わないこと請け合いである。
「面白い。」
凰火が心の底から楽しむように笑う。
「試合、始めて良いですか?」
大会委員長の言葉に二人は頷く。
試合の鐘が鳴り響いた瞬間、二人の体から会場を圧倒する殺気が放たれる。
どちらも人とは思えない速さで間合いを詰め、凰火が僅かに早く刀を振り上げる。
ヴィスは刀の背に右手を添えて、凰火の刀を押し返す。
その勢いで、凰火の体が後ろへ飛び、後ろへ向かう力を抑えようと踏ん張ったので地面を擦る音が響く。
凰火の隙目掛けて、ヴィスは刀を前へ突き出したが、凰火の刀が真下からヴィスの刃を叩く。
前が開いたのを狙って、返す刃でヴィスを斜めに切ろうとしたが、そこはヴィスが刀を話して前転し逃れる。
すぐさま状態を起こすが、凰火の太刀が迫る。
肩膝をついた体勢で、ヴィスは額に当たる前に太刀を素手で止める。
「真剣白刃取りか!」
凰火が驚いたように叫ぶと、ヴィスはそのまま凰火の太刀を左に傾ける。
強い力が加わり、凰火は手首を守る為に己から引く。
ヴィスは立ち上がり、脇差を抜いて、凰火に迫る。
凰火が上段から迎え撃とうとした所を、脇へ逃げ、地面に転がっていた太刀を拾う。
すぐさま脇差をしまい、太刀を握りなおして、凰火目掛けて走る。
刀と刀がぶつかり、鍔迫り合いとなった。
力はヴィスの方が強いかもしれないが、刀の使い方は凰火に分がある。
二人が一端後ろへと飛びのくと、凰火は腰に柄を添えるような構えで走り出す。
二人がぶつかり合う瞬間、ヴィスは刀を真上に掲げた。
が、凰火の刀との間合いを見誤った事に気付き、慌てて振り下ろそうとした瞬間、
凰火の刀がヴィスの喉を真下から嘗めた。
皮膚を浅く切っただけで留まったのは、ヴィスが踏みとどまったからだ。
会場があまりにも早い剣戟の押収に圧倒され沈黙している中、委員長が叫んだ。
「勝負あり!! 勝者、黒髪大将!!」
途端に拍手が沸き起こり、両者を讃えるように謎の絶叫まで始まった。
「黒髪大将最高!」「チビもよくがんばった!」「黒髪大将抱いてくれー!!」
とまぁ、どうもよくわからない声に対し、ヴィスと凰火はコートを被ってさっさと退場する。
このまま観衆にいちいち挨拶はしていられない。
人の群れから逃げ出した二人は、アターカを見つける。
「二人とも素晴らしい試合だったな!!」
アターカが満面の笑顔で迎えてくれた。でも、ヴィスは気に食わない。
「素晴らしくもなんともないよ。ボクは危うくオゥルスカさんに殺されるところだったんだっ!」
ヴィスが首を押さえながら言う。
「力はあるんだ。しごけば使いものになる。」
凰火の言葉にヴィスが必死で首を横に振る。
「ボクには努力とか根性ってのは似合わないんです!! 今だって本気出しちゃったんですよ!?」
「あの程度で本気なのか?」
凰火の笑いにヴィスが膨れっ面をする。
「ボクは死闘とか、ギリギリの精神状態になったことなんてありませんから。
あれ以上の集中力なんて意識して出せませんよーだ!」
その言葉にアターカが苦笑する。あれだけの殺気と力を出すためには、並の人間ならば一生をかけるところだ。
「ところで、リベルテは?」
ヴィスの言葉にアターカが後ろを指差したので、凰火とヴィスはアターカの後ろをそっと見る。
遠くに、換金をはじめるリベルテの姿。ほくほく顔だ。
「よかったな、ヴィス。きっと感謝されるぞ。」
「嬉しくないっ!」
アターカの励ましにヴィスは首を横に振った。
凰火は二人の会話から空へと視線を移す。星々の真ん中で緑がかった大きな月が静かに光っている。
月光は相変わらず、胸に痛いが、以前ほどではない。
(禍々しい魔物の瞳のような月だ。)
心の中でそう形容する。
「オゥルスカさん、月なんか見るものじゃありませんよ!」
急に声を掛けられた凰火は、ヴィスの方を見る。アターカはわけがわからないという顔をしている。
どうやら、この世界の竜に関係する事のようだ。
「月が危険なのか?」
アターカが笑いながら聞くと、ヴィスは顔を膨らませる。
「アターカは大丈夫だけど、オゥルスカさんやボクには少し分が悪いの!」
ヴィスは口を両手で多い、月を見上げる。どこか怯えたような、困った顔だ。
問いただしても、これ以上は聞けないだろう。
「ところで、話は変わるのだが。」
凰火の言葉にヴィスがほっとした表情で両手を下ろす。
「黒髪大将とは何だ?」
凰火の問いにアターカの方が気まずそうな顔をする。
「名前がよくわからないから、貴殿をそう呼んでいるのさ。その、カローヴァ国内外で。」
相変わらずこの世界の態度には呆れてしまう。
凰火はフードを目深に被りなおした。
吹き付ける夜風は冷たく、秋の到来をひしひしと感じさせた。
最終更新日 2007/01/13
感 想 戦闘シーンって、よくわかんない。
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