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風が囁く悪事に耳を傾けるのは 自分の利になる時だけにしろ
闇が全てを包むように 海が全てを沈めるように 炎が全てを焼き尽くすように
大地が全てを飲み込むように 光が全てをさらけ出させるように
それら以上に 風は心も体も切り裂き凍えさせてしまうのだから
光の竜ラスヴェータは、血を孕んだ風に竜の気配を感じて空を見上げた。
「何か用なの?」
ラスの問いは、周りを囲む兵士達には聞こえない。
昨日から吹き荒れる風のせいだ。
『別に。ただ、顔を見に来ただけだよ。』
風の長老竜の悪戯で、兵達は悪い視界の中を進むことになった。
馬上の人であるラスは、特にこの風の影響を受けて、普段はフードで隠している老婆の顔をさらけ出す。
「リベルテを試しそこなったからって、あたしに八つ当たりしないで。なんだったら、今、あなたを殺してもいいんだからね!?」
『ふんっ。あれは炎の若造のせいでしくじっただけだ。』
三日前、ヴィスがリベルテに対して竜族式共同生活を説明できなかったことに腹を立てていることは、
遠くセルフヴォラン国にいるヴィスの心の声さえも聞こえるラスである。
勿論、それが誰によって仕立てられ、どうして失敗したのかぐらいは把握していた。
母親から最初にもらう秘密の名前で心が隠されているといえども、
すっかり疲れてしまったヴィスの心の声ぐらいならば、時々ふと聞こえるのだ。
「それで、あなたは何をたくらんでたの?」
ヴィスも困惑していたが、どうして今"竜族式共同生活"を説明する必要があったのかわからない。
風の長老竜は、若くして長老竜を務めるようになっただけに、様々な術で己を守っている。
気を抜いている時ですら、心の声は聞こえないし、ましてや心を読もうとすれば、さすがに年配の光の竜でも苦労する。
本来の力を使うにはあまりにも空腹なラスにとって、そんな大きな術は使えない。
『民主主義が気に入ったようだから、試したかったのさ。』
ラスが首を傾げる。
『竜が共同生活を滞りなくできるのは、生活領域が狭いせいで、誰もが不満を言えない状況だからだ。』
「ヴィスのいった土地柄の問題ね。」
『その通りだ。だが、それに気づくかどうかは次の段階の問題だ。
まず最初に、ある種の理想的な生活様式を知った時のあの子の反応がみたい。』
「と、いうと?」
『ただ、理想に憧れているだけなのか、そうではないのか。もしも理想に憧れているだけならば役立たずで終わる。』
「そんな事をためそうとしたの? あなたって、本当にひどいわ。」
『なんとでも。
結局、理想主義者の作る国なんて、どこかで無理がきて壊れるのがオチなんだよ。』
理想主義者と聞くと、この世界の土台を作った闇の竜のことをさしているような気がした。
世界の始まりに立ちあったわけではないが、光の竜のラスでさえ、その程度の事は知っている。
闇の竜が作り出した世界の土台は、美しく端整だったが、それと同時に一つ狂うと壊れていくしかない。
けっして世界自体には修正や修復をする力がない、とても脆い世界。
大昔の、光の竜達との戦いや、近年激化する人間達の戦争で、もはや世界は汚れきっている。
竜も、それ以外の古い生き物達も生きてはいけないぐらい、この世界は壊れてしまった。
あとは、外枠である地上を壊せば、世界は完全に壊れるだろう。
「風の竜、あなたはいったい何を望んでるの? まるで世界を壊したいみたい。
それも、あたしとはまた違う方法で。他人が壊すのをけしかけるように。」
ラスの問いかけに、風が囁く。
『私は昔も今もこれからも、自由に吹き続ける風なだけさ。他意はないよ?』
暫くして風が弱まると、少し先を進んでいたクロが馬に鞭を打って駆けて来た。
「おい、誰と喋っていた?」
あれだけ風が吹き荒れていたというのに、声が聞こえるものだろうか。
いや、声ではなく気配として感じ取っていたに違いない。
「あなたには関係ないわ。だいたい、ジェラーニヤじゃないんだから怖くないでしょ?」
"ジェラーニヤ"という単語にクロは震えて、またナムの傍まで走っていってしまう。
「ふん! 意気地なし。」
クロの背中を笑いながら、周りを見回す。
人の気配が近づいてくる。それもかなり沢山。
カローヴァの街まではまだ普通に進んでも10日はかかるが、その間にはいくつもの村や町がある。
そこの人間が襲いに来たのかもしれないと一瞬不安になったが、すぐに安堵した。
別に、害はない。
ラスは馬を走らせ、先頭の方を行くナムの隣に割り込む。
「人が来るわ。でも、決して攻撃しないで。彼らにその意思はない。むしろ、反パーズドビシャよ。」
ナムが驚いて斥候が戻るのを待つ。
少し先を走っていた馬が戻ってくると、確かに人がいて話をしたがっていることを伝えた。
ナムはどうしたものかとラスを見る。
「彼らは、自分達の命と生活の方が大切なはずだから、こっちから誠意を見せれば何もしないわ。大丈夫。」
今まで戦うことしかしてこなかっただけに、こういう交渉ごとは苦手なナムだ。
辺りをぐるりと見て、カールタとクーリツア、それからカデットを呼び寄せる。
「誠意を見せるならば、相手の要人と一対一で話すべきだね。勿論、お互いに護衛は置くが。
しかし、占い師の言葉だけでは相手の真意はわからない。」と、カールタ。
「相手の真意は確かだ。ラスの力は本物だからな。
ただし、相手と会うならばまず隊長のお前は絶対に行かねば行けない。わかるな?」と、クーリツア。
「向こうが何人かはわからないけど、用心の為にクロとラスを連れて行くことを提案するわ。
できればカールタとクーリツアも。だけど、部隊はナム隊の時より多いから、
指揮官として、二人のうちどちらかは残しておくべきね。」と、カデット。
ナムは唸ってから、閃いたとばかりに口を開ける。
「部隊はここで待機。これは決定だ。次に、向こうへ行くのは、案内役の斥候と俺とクロとラス。それからカールタとクーリツアも。
部隊の総指揮はカデットに任せる。細かいことはチャコなりケーリーなりプティなりを使えば良い。
俺は交渉事に向いてないから、皆フォローを頼むぞ。」
こうなると思ったという顔をする者もいれば、笑う者、怒る者と様々だが、皆諦めた様子でナムの言葉に従う。
「ようこそ。ノーミルさん。」
孫に爆竹でも仕掛けられたのかと思うほどのモジャモジャした顎鬚が特徴の男が右手を出す。
「やぁ、こんちは。斥候が、あんたが俺と話したいってたと言うんで、なんの用か聞きにきたんだ。」
馬から下りたナムは、特徴的な顎鬚の老人と握手した。
「そりゃご足労をさせて申し訳ない。ちと、おりいった話じゃでな。」
老人がナムの周りを囲むようにして立つ四人を見る。
黒髪の少年、フードをかぶった老婆、傭兵風の男、ヴェールをかぶった女。
風変わりな組み合わせであることは確かだが、奇異の目というよりも、探るような目つきで四人を見ている。
「我々も、隊長を無くしては困りますからね。護衛ということでここにいます。
申し送れましたが、私は副隊長のカールタです。」
カールタが軽く会釈すると、老人もつられて会釈する。
「ところで、あんたは何者だい? 俺らとどんな話をするつもりなんだい?」
四人に釘付けになっていた老人が、ハッと顔を上げる。
「心配なら仲間を呼んだって良いが、あんまり後ろにいる兵士達を待たせるのも可愛そうなんでね。できれば要件を先に聞きたいんだ。」
そう言って、腰のベルトに下げた剣を柄ごと取り外し、カールタへと渡す。
「な、何をする気だ!?」
カールタが驚いてナムの顔を見る。
「ちょっと預かっててくれや。それと、お前ら少し下がってくれ。老人に刃物を見せると心臓が止まりかねねーからな。」
カールタがウインクすると、老人は顎鬚をゴソゴソと撫でる。恐れ入ったとばかりの表情だ。
「いい度胸をしておる。気に入った。
ワシ等は長いことパーズドビシャ国にゃえらい迷惑を被ってるんじゃ。
お前さん等が良いと言うなら、ワシ等の村の若いモンを兵士として連れてってくれんかのぉ。
ワシは戦争なんつぅヤクザなことはやめて欲しいんじゃがのぉ…。」
その言葉を合図に、街道の脇から一斉に人が現れる。
男も女もひどくゴワゴワした髪で、縮れ方ときたら老人の顎鬚と良い勝負である。
「おいおい、じいさん。こりゃ押し付けかい? 俺等の旅はカローヴァを超えて王都までだぞ。
こんな一般人を旅に入れるなんて、屍を増やすもんだ。まだ秋の収穫までは人手もいるだろうしな。」
しかし、人々はそれでも後をついていくという。
「言ったじゃろう? ワシ等は長いことパーズドビシャにえらい迷惑を被ったと。」
そう言って老人の姿が歪む。
「なにッ!?」
ナムが驚くのも無理は無い。
「ほっほっほ。つまりは、こういう力のおかげで、どうせこのままなら若いモンはみぃーんなパーズドビシャに連れて行かれるんじゃ!」
ナムの隣にカールタがやってきて囁く。
「ケーリーとかいう呪術師と同じだ。パーズドビシャは呪術師も戦力として捉えるからな。」
老人は笑いながら姿を消し、後に残ったのは何の変哲もなさそうな男女が30人欠けるぐらいだった。
こんな風にして、カローヴァまでの田舎道はとても楽に進めた。
パーズドビシャの国政には問題が多いらしく、今回の戦争では差別階級や田舎にそのしわ寄せが来ているのだ。
おかげで、"反パーズドビシャ"であり"民衆を考える"ナム隊を支持する集落が現れたわけである。
勿論、プシニーツァが影で糸を引いていた反乱の種によって、民衆心理は結構反パーズドビシャに傾いていたわけでもあるのだが。
それにしても、賛同する若者達の出現以上に驚いたのが、村や町の態度だ。
まるで英雄を受け入れるかのように、ナム隊を村や町へ招きいれ、時には演説さえ求めた。
しかもまたこれが功を奏した。
ナムは戦闘以外での企みは、人事以外に働かない。
かえってそれだけに、糾弾されても自分の理想や考えが曲がらないのだ。
「パーズドビシャ国を民衆の為の国にすれば、働かずに遊んでる中央貴族共から税を取る。
んでもって、税金で孤児院や懲治場を立てよう。
子供こそ将来を担い、俺等が年老いた時に国を動かすんだからな!」
子供の命が守られない国なんて、そんなものはいらない。
そういう考えがあるナムの言葉は情熱的で扇動的だ。
何せ、そこには本心からの叫びがあるのだから。
独裁者にならなければ良いがと思いつつも、応援したくなるのは何故だろう?
「懲治場っつーんはなんじゃろかい!?」
誰かがナムに大声で叫ぶ。
「そいつぁな、罪を犯した女や子供が入る場所だ。
貧しい女に子供を産ませる貴族は罰せられず、女と子供は罪を背負って生きるのはアホだろう!?
ってか、男はヤルだけだが、女は子供を持つ羽目になるんだ! こりゃ悲劇だ。
なんせ、子供は親を選べないから、そんな性悪男といじめられっこな女の下の子として苦労せにゃいかん。
だから、そういう奴らを更生して、また皆と暮らせるようにする為の場所さ!」
この懲治場という考えは、ナムの考えというよりはクーリツアの考えである。
他にも色々とナムは公約を上げたが、そのどれもがナムの意思であり、ナムを支えてきたナム隊の隊員の誰かが願ったことだ。
それは、カールタだったり、カデットだったりプティだったりケーリーだったりと色々で、
本当に誰の為でもなく皆の願いをナムが代行して言っているのである。
こうして、中央集権国家型の王侯貴族政治を行ってきたパーズドビシャ国は、下級層からの支持を失い落ちる羽目になった。
まず、兵隊を呼びに集めても、兵隊となる下級層の若者が皆ナム隊を支持してしまって人が集まらない。
次に、物資を集めようと徴収令を出しても、ナム隊に差し出してしまったのでないという。
ナム隊は、自分達についた村や町には、例え心からの贈り物だとしても、盗賊のように物を盗られたと言う様に伝えている。
そういえば、多少の良心の呵責だけで、村や町は守られる。
出すものがないのだし、盗賊に襲われたのに出せというのはおかしいと反論するのも良いとそそのかしたりもした。
まぁ、そんな感じで多少の戦闘は仕方なくとも、ほぼカローヴァまでの道のりは簡単だった。
最初に同士を迎え入れてから20日あまりが経った。
予定よりも倍近くの時間をかけてしまったが、それは人が増えすぎたことや、
村や町へと人狩りに来るプシニーツァ軍を攻め叩いたりしていたためだ。
長い行軍に耐えられなくなった者は故郷へ返し、それでも付いてくるという兵だけが残ったナム隊は、いよいよ負け知らずとなった。
もはや、百戦錬磨の凄腕部隊として世界中に名前が轟き、これに続けと各国の反乱軍も血気盛んだ。
そして、ナム隊はこの日、丁度昼を終えた頃、最初の目的地へとたどり着いた。
「カローヴァの街だ!!」
子供のようにナムが喜ぶ。
いくら百戦錬磨といわれても、所詮それは小さな部隊を倒してきたり、反乱を手伝っただけだ。
大きな成果がなければ、そのうち民衆心理も翳り、声援は下火になってしまう。
だからこそ、完全武装し城門を降ろしたカローヴァの街は素晴らしい獲物に見えた。
昔の名残で、巨大な城としての機能も持つカローヴァを攻め落とすのは並大抵の事ではない。
だが、反対にこれを陥落させ、この街の主たるパーズドビシャ王の従弟の首を取れば…。
「勝利は俺等のモンになる。」
久々に心が躍った。
ナムの悪い癖が再発した。興奮すると歌を歌いだすのである。
だが、これには今や1万となったナム隊全員が賛同し歌い始める。
俺らに敵うやつぁいない
男も女もミナ強い♪
カローヴァからの砲撃を受けて誰かが叫ぶが、弾が落ちる場所をしっかり見計らって逃げる。
混乱しなければ、旧式カタパルトや砲撃は避けられないものじゃない。
遠方からはパーズドビシャお得意の呪術師連中が、可能な限りのまじないや呪いを送ってくれる。
それは弾の軌道を時々変えてくれたり、相手の砲台が運悪く弾詰まりして使い物にならなくなったりという奴だ。
本当に呪術の力なのかは分からないが、それでも普段よりは多い気がする。
俺らが求めてるのは住みよい暮らし
老人も子供も迷わない
前衛部隊であるナム小隊が走り、クロの力で砦の扉を破壊すると、後衛の重量部隊が雪崩れ込む。
一番命を落とすのは、突撃部隊だ。
普段と違って、相手には武器も兵も十分にある。忠誠心というよりは恐怖政治によって民衆を圧倒しているのだ。
この前衛を切、後衛に突破口を開くナム小隊と重量部隊に、いつも以上の被害が及んだが、それさえ乗り越える。
俺らが戦うのは王様貴族様
あいつらの手にゃ"マメ"がない
市内に入れば後はもう単純に、頭を取るまでは死なないように敵を殺し続けるだけだ。
ナム隊はカローヴァの主を求め、カローヴァ側はナムの首を求め、町中を奔走する。
街の中央にある城へと攻め入ったナム隊は、厳重な警備を切り裂き突き進む。
しかし、親玉が見つからない。
ナムが焦り、クロがその後を追っかける。
ラスもなんとか居場所を探ろうと神経を集中して心の声を拾おうとするが、
生死をかけた争いの中ではそんな術は役に立たない。
敵の魂をごっそりと奪いながら、ラスも必死で親玉を探した。
俺らにゃ明日はないかもしれない
敵の術中に陥るか敵の刃に血を流すのか
そんな中、プティが奇妙な違和感を覚えて立ち止まる。
いつの間にか誰もいない場所に来てしまって、こりゃ迷子だと思いながら走っていると、声がした。
しかし、周りは廊下で誰もいない。不安が募る。
本当はこんなことはしてはいけなかったのではないか、
そもそも、これらの武功のほとんどは化け物達のおかげなのだから、本当の解放ではないのでは?
突然、プティの中から戦意が失せ、手近の壁に体を預ける。
俺らは自分の魂と隊長を天秤にかける
隊長が重い間はまだ戦える
壁が内側へと傾き、プティはその向こうの隠し部屋へと倒れた。
闇の中で、小さな目がギラギラ光る。この顔には見覚えがある。
正面玄関ホールに飾られた領主の自画像とそっくりだ。
「ち、チミは、私を殺すのかね? 私は今まで一番良いと思う政治をしてきたのに!」
ドギマギとした声が部屋の隅から聞こえる。
確かに、カローヴァの街はパーズドビシャの中では良心的な政治をしていた部類だ。
「そもそもどうしてカローヴァなのだろう? 東回りで別の街から攻めたほうが王都には近いはずだ!」
それは、最初の目的地がカローヴァで、これはプシニーツァの戦略さえも加味しているからだ。
つまり、民衆の為と言いながら、処罰から逃げる口実として、今だに王家の命令にも沿っている。
「…。」
プティは迷ってその場に膝をつく。
そして、天秤は傾いた。
俺らの思いはいつでも一つとはいかない
突然の裏切りで終わるかもしれない
プティはそのまま廊下の隠し扉を元に戻し、ナムの元へ向かった。
ナムはすぐに見つかった。死体の多い場所を探せばナムとクロがいるからだ。
「プティ、そっちはどうだったんだ?」
ナムが足を止めたのに気づかずクロが先行したのを見て、プティは柄を握りなおす。
「うん、そうだね…。」
プティはナムの傍に近寄り、いかにも報告をしようとする振りをして、剣を突き出した。
一瞬早く、ナムの剣がプティの剣の軌道を逸らす。
「俺を裏切ろうってんだから、覚悟はできてるよな?」
ナムが笑う。プティの不安は分かっていた。カデットもよく、プティが悩んでいると漏らしていた。
それでもついてくる仲間が欲しかったし、そうでないならば切れば良い。
プティが体勢を整えて、また切りかかる。
「お前が姉さんを危険な目に合わすんだ! 皆がお前のせいで苦しむんだ!!」
プティが大きく振りかぶったところを突いて、ナムの剣が腹を大きく割く。
しかし、プティの剣もナムの肩を切った。以前、傷ついた場所なだけに、よく効く。
プティは死を悟り、己の中の全てを叩きつけるような思いで意識を解き放つ。
ナムの体が真後ろへ吹っ飛ばされた。まるで見えない大砲に押し詰められて発射させられたように。
それでも俺らは戦い続ける
ナムの異常に気づいて戻ったクロがナムを支え起こす。
目の前ではプティが絶命している。
「お前は良い息子だった。腕も良かったし、魔法だって最後にゃできた。」
クロは腹を立てたが、ナムはプティの傍によってその頬に口付けした。
思い出せるのは、死ぬ直前までの敵意ではなく、チャコにまとわりついて笑っていた無邪気な顔ばかり。
カデットを困らせ、ナムの悪口を言った懐かしい日々。
そして、俺たちは家族なんだと炎を囲んで言った、何ヶ月も前のあの夜のこと。
仲間の為に家族の為に
仲間も家族もいつかは裏切るものなのかもしれない。
それでも信じてくれている間は信じたいし、裏切らないように自分からもどうにかしたい。
だが、それをすべき相手は今まさに自分の手で殺してしまった。
心残りは仲間の異変に耳を傾けなかった自分自身。
「おやすみ。」
開いた目蓋を閉じてやり、追いついたカールタにプティの来た方を探すよう命じ、
自身はプティを引きずってカデットの元へと行った。
そして俺らの未来の為に
カデットは号泣したが、誰の文句も言わず、弟の額に口付けた。
程なくしてカールタがカローヴァの領主を生け捕り、領主は後日民衆の前でギロチン台にかけられた。
プティは近くの共同墓地に埋められたが、カデットの意向で墓石に名前は彫らなかった。
悲しみも喜びも含めてカローヴァ制圧が終わった日、ナム隊の仲間の多くが命を落とした日、
市民が血の海で遠くと思っていた戦争を思い知った日、そして民衆の力が王侯貴族を脅かすと目に見えて教えた日。
丁度今日というこの日が、偶然にもパーズドビシャ国立記念日だったことが、否応無く更なる運命を予感させた。
最終更新日 2005/08/02
感 想 プティ死んじゃった。 双子の死亡から、どんどん名前のあるキャラが死んでくな。
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