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速足で馬が駆けていく 嘘にも噂にも耳を傾けずに
軽快なギャロップが時代を予感させるのは何故だろう
堕ちていくのは誠実なる正義? それとも別の何か?
外道を倒す勇者はもうこの世にいないことだけが確かだ
「やりやがった!」
アターカは叫んで伝書を皺くちゃにした。
5日前には凰火が深夜の大量殺人を起こしてくれたというのに、今度はまたとんでもないことだな。
「何が書いてあったの?」
憑き物が落ちたかのような明るい笑顔で問い返すリベルテ。
アターカは伝令の背中に投げつけたくなる衝動を抑えながら、もう一度伝書を開いて中身を読み、かいつまんで説明する。
「隣国にして世界三台大国の一つ、パーズドビシャで反乱が起こった。
首謀者はノーミル。通称ナムと呼ばれる傭兵だ。前にも話さなかったかな?
私の後釜になったプシニーツァ軍の一人で、クロという少年を連れている男だ。」
リベルテは頷きながらも、何故プシニーツァ軍の男がパーズドビシャで反乱を起こす必要があったのか知りたくて先を急かした。
「プシニーツァ軍を離脱し、プシニーツァ兵に多数の死傷者を出して砦から逃亡したそうだ。
現在は捕虜だったパーズドビシャ軍を率いて、パーズドビシャと戦闘中。
なんでも、目的は王政の廃止と民主的な政治の樹立だとかなんだとからしい。
何故、今なのかはわからんし、理由をはっきり言って謎そのものだ。革命家だってこんな突然動き出したりはしない。」
だからこそ、アターカのような前線部隊にも伝令がやってきたのだ。
これは一種の忠誠を確かめるものである。普通の情報として扱えばいいだけのことだが、
離反を企てようとしている人物には、これが以外と効果的だったりする。
例えば、万引きをしようとしている人の隣でこんな会話をしてみよう。
この前万引きが起きてお店の人が罰則を厳しくしたんだよ。へぇ、それは怖いね。
すると、万引きの手に迷いが生じる。小心者や小悪党ならばこれだけでも効果的だ。
つまり、両者共に遠まわしで「やめとけ」と言っているわけである。
「だけど、民の為の政治っていうのは良いよね。たぶん、民主的ってそう言う意味でしょ?」
王政の方が多いこの世界では、"民主主義"というものへの理解が薄いのだ。
「確かに、民の権利を大切にするのは良いことだが…別のだれかならまだしも、あいつが!?」
民の生活が潤えば礼節を弁えるようになる、と考える思想家はどこの世界にもいるらしい。
だから、アターカも民の利益を考えることが国政にとってどれほど重要か知っている。
王政廃止だとて、腐りきった二つの王家を見てきたアターカならば賛成してもおかしくない。
しかし、それを始めようとしているのが他ならぬ傭兵ノーミルでは話は別だ。
彼女は、過去に「ノーミル」と名乗る男に暴行を受けた経験があるのだ。
「どんな面を提げて、ご大層な事をいえるんだかな!!」
しかし、彼女とノーミルの間の関係を知らないリベルテは、感情的に反論する。
「そうかしら? 自分の領土を守るためとか何とか言って人を差別して殺す国主よりかマシじゃん!」
これにはアターカも反論できない。自分もそう思うからだ。
しかし、どうしてもノーミルを許せないので話は平行線となった。
だが、心の中では二人とも一つの理想へと進んでいた。
それは―――誰も虐げられない国作り。
5日前の深夜。凰火が夜盗の集団を切り殺した晩、リベルテは泣きながら思った。
こんな風に、戦で心が汚れてしまうのはなんて悲しいことなんだろうと。
人を殺すことも、人から物を盗もうとすることも、憎むべき罪だというのに平気でやってのける。
そんな人間を作る戦争を始めてしまうのが王政ならば、王なんていらないと思った。
真に必要なのは、虐げられ殺される側を守ってくれる国だと。
同じ時、アターカも心から泣き叫んだ。
自分のように、居場所のない人間を平気で作ることが、人の上に立つ者のすべきことかと。
自分達の作った規律で、身動きとれず国民に罪を犯させるのが王政なのかと。
ならばそんなものは間違っている、正義ではないし従うべき法でさえない。
人間の尊厳の居場所を軍人が問うのは少々可笑しいと思いながら。
リベルテは、今こそその時といわんばかりに声を張り上げた。
「ノーミルがやるのが許せないなら、アターカがやればいいじゃない!」
アターカは驚いてむせ返る。
「はぁっ!?」
「そうよ、そうすれば良いんじゃん。だってアターカには力があるんだもの!
親を脅して武器調達もできるんじゃない!? アターカのお母様もあたし父様も資産家だしね。
後は、一緒に戦ってくれる同士を集めるだけよね。」
勝手に話を進めるリベルテにアターカは唖然とした。
この小さな体に、どうしてこれほどの熱意があるのだろうか。何よりも、どうしてこうも悪知恵が働くのかと。
「合言葉は、民主主義に乾杯!」
「愚かだな。」
一人盛り上がるリベルテに水を注したのは凰火だった。リベルテの顔が引きつる。
かなり立ち直ったとはいえ、まだ凰火の顔を見ると過呼吸症候群に陥るのだ。
リベルテが両手で口を塞ぎ、酸素の過剰摂取を避けようと必死になっている姿を横に、凰火が喋り始める。
「民衆の為の政治なんぞ人間が作れたためしはない。せいぜい30年続けば立派なものだ。」
スーはースーはーすーはーぐへらっすーハーすーハァー
「政治を行うのは所詮、一部の権力者でしかないから民衆の意見は取り入れられ難い。
選挙で選ばれたとしても、それは金持ちだから宣伝する力があっただけのことだ。」
スーひゃーすーハーすーはーふしゅースーすーはースー
「第一、民衆の意見を聞き入れると言いながら、金のある市民階級の意見を聞いているに過ぎない。
下手に権力者が増えた分、些細な事柄でさえ決まりにくいしな。」
すーはースーはースー…
「すごいわ! それがオゥルカの国の民主主義なの!?」
鼻で笑っていた凰火の顔が引きつる。
「もっと色々聞かせて! これは絶対に今後に生かせるはずだもの!」
今後とかないし。ちょっとアターカが突っ込みたそうな顔をしている。お気の毒様です。
「い、いや、その…」
「いいでしょ? それとも、物惜しみするの?」
リベルテの目は挑戦的だが、両手で口元を覆っている姿は笑いしか生まない。
だが、自分の計画の布石となりそうだと判断したものに対して、リベルテは容赦しない。
たとえ相手が、恐ろしい殺人鬼と化した人物だったとしても。
凰火のうろ覚え民主主義講座(資本主義も混ざってる)は、なかなかためになった。
王政下で育ったアターカやリベルテには意外な事が多数あったし、
税のとり方については、凰火が七面倒だと言うだけあるなと頷いてしまった。
しかし、それらを考慮しても彼の話した民主主義は理想郷のように感じた。
少なくともそこには奴隷はいないし、子供は安全に教育を受けて暮らせるし、
階級に支配されるようなことは無く、実に自由だ。平和ボケしそうなぐらい。
「やっぱり、民主主義を作る為に立ち上がろうよー!」
リベルテがアターカを促す。だが、アターカはもっと重要な事を思い出していた。
「悪いが、私はこれでもセルフヴォラン国王軍だぞ? 少しでも怪しい動きをとれば首が飛ぶ。私のだけならば良いが、部下も職を失いかねない。」
そう言って断りながらも、心の中ではこの戦争が終わったら考えてもいいと思えた。
凰火が呆れ顔でその場を後にした。
「民主主義が人間達の間で流行ってるのを聞いたかい?」
今日のコーディネートは、またも死人フォッセという悪趣味な姿である。
勿論、風の長老竜の姿のことだが。
「はぁ? ボクはまだ聞いてませんが。」
キャンプ地から少し離れた林の中で、またもヴィスは風の長老竜と話す羽目になった。
ここ数日、戦闘らしい戦闘が、凰火の大量虐殺ぐらいしかなかったので、
リベルテの件に関して文句を言われる筋合いはない、と少々強気な態度である。
「それが、流行っているんだよ。そこで、我が弟の妹にあたる可愛いリベルテは、」
(本当に可愛いと思ってるの?)と思うヴィス。
「可愛いリ・ベ・ル・テは!」
「いひゃたたた!!」
どうやら何を考えているのかを察したらしく、風の長老竜は体育座りをしているヴィスの頬を思いきりつねった。
「どうやらコレを機に革命を起こしたいみたいだよ。もっとドワーフ族の住みやすい国をってことでね。」
「おぉっ!! さすがリベルテ!! やっぱり誰も裏切らない!!」
嬉しそうに拍手するヴィス。彼がフォッセとした約束も守られるし、彼女も立ち直って一石二鳥だ。
「私のことかな? 裏切り者とは。」
ヴィスの微笑みが凍り、視線が宙を泳ぐ。まだまだ悪口は年上の竜達に勝てそうも無い。
ヴィスが否定しないところを見て、風の長老竜は赤くなっていない方の頬をつまんだ。
「そこで君には時を見計らってリベルテに平等な社会の一例を教えてやってもらいたい。」
ヴィスが両頬を押さえながら風の長老竜を見上げる。
「少なくとも、人間の社会よりは竜の社会の方が平等だろう? 特に、炎の竜の島はね。」
言われてヴィスは考えてしまう。
確かに食事の分配や、生活用品の需給なんかは結構平等だったが、それは小さな島に住んでいるから、
どうしても皆で使いまわしたり分け合わなければいけなかっただけではないのか。
もしも広大な大陸で自由に暮らせたら、わざわざ平等な社会を立てるだろうか?
ヴィスの言いたいことは、風の長老竜も考えるはずだ。
ならば、この言葉の裏側には何かしらの企みがあるに違いない。
「それは土地柄でしょう? また何を企んでるんですか?」
すると、風の竜はにこりと笑う。
「一つは正解だ。もう一つは少し違う。まぁ、教えてみなさい。」
それだけ言うと、風の長老竜は姿を消し、風となって空へ戻った。
「まったく、いつも突然なんだよなー。」
ヴィスは溜め息を吐きつつも、彼の命令を聞かなければ長老竜達に告げ口されるという強迫観念から、すっかり諦めていた。
また長い夜がやってくるのだと思いながら、アターカの胸は高鳴っていた。
もしも、もしも国が民主主義になったらどうなるんだろう。
国王の独断と偏見で推し進めるような体制が終わり、プシニーツァの豊かな国土は黄金に輝くだろう。
きっと自由に大地を開拓して、真っ黒な大地には麦や小麦が蒔かれ、今ぐらいの時期からゆっくりと穂は黄金へと変わるだろう。
国の南側では綿花が開くかもしれない。東方から絹を吐く虫を輸入して育てるのも良い。
リベルテの故郷、商業国家フロッテ国と自由に貿易をすることもできるだろう。
字が読めない国民が減ったら、きっと民間の外交も盛大になるだろう。
そうしたら、きっと、皆の生活が豊かになるんだろうな。
「何、笑ってるの?」
リベルテの言葉にアターカは我に帰る。
「別に、なんでもないさ。」
いつも通りだという顔をしようとするが、できそうにない。
「やっぱり、アターカも考えてるんでしょ? 民主主義。」
アターカの考えは、少なくとも凰火の住んでいた地球の日本の考えよりも、
もっと資本主義でご都合主義な気がするが、突っ込み手はいない。
凰火はあまり多くを語らないし、他の者は民主主義を知らないからだ。
「考えるだけだ。実行はしない。」
「じゃあ、もしも、もしもの話だけど…戦争が終わったら?」
戦争が終わったら。
少し考える振りをしてから答える。
「命があったら、参加してもいいかな。」
どうせ、生き延びたところで王家にしてみれば目の上のこぶに違いないのだ。区切りが付いたら反旗を翻すのも悪くは無い。
「そういうリベルテはどうするつもりだ?」
「たぶん、オゥルカは国に帰っちゃうと思うから、ヴィスと一緒に仲間集めをするかな。」
小首を傾げる。前はシャランと音を立てた髪はもうない。
「以前の、私が出会ったばかりの頃の異国の剣士ならば、協力したかもしれないな。」
まるであの頃とは違うのは、凰火ばかりではなく自分もそうだ。
まだ戸惑いはあるが、スュー人の子供の世話をほんの少しだけ見たせいか、人種差別が愚かな気がしてきた。
むしろ、劣っているというならば、同じ年頃の自分の方が心は発達していなかったと思う。
今やっと、騎士としての張り詰めた心以外を手に入れて、戸惑いだした自分を思うと妙に気恥ずかしい。
やっと、人間らしい優しさを知った気がする。
「どうしてあんな風になっちゃのかわからない。ヴィスにも聞いたけど、わからないって言ってたし。」
リベルテが深い溜め息を吐く。
アターカはリベルテの言葉の全てが正しいとは思わなかった。
ヴィスは何か隠していると思う。リベルテの事だけではなく、この頃は自由な時間になるといつも上の空で、姿をくらますことも多くなった。
それも、凰火が大量殺人を犯した5日前からは顕著に。
「元に戻ると良いな。」
落ち込むリベルテを慰める言葉を、彼女はまだ知らなかった。
「うん。奥さんと娘さんの為にもね。」
リベルテの吐いた言葉に、アターカは一瞬遠い目をした。
「…娘?」
「うん。若い娘さんがいるんだって。あたしと同じくらいかちょっと上だったかな?
歳は教えてくれなかったけど、話を聞いたぶんだとだいたいそのくらいっぽい。」
アターカは顎が外れそうなくらい口を開けて、両手で額を押さえた。
まさか妻子持ちだったとは。いや、妻ぐらいならまだ分かるが、リベルテぐらいの娘!
確かリベルテは16歳ぐらいだと以前教えてくれた。となれば、単純に同い年でも、凰火の年齢には問題があった。
どう見積もっても20代前半がやっとだ。30代とはとても思えない。というか、10代でも十分通るベビーフェイスぶりだ。
と、思うのはアターカやリベルテ、こちらの人間がやたら堀の深い老け顔で、長身で、老若男女がたいが良いためだ。
「一体、幾つの時の娘!?」
頭の中では、未成年というか小さな少年が年上の女性とウエディングロードを歩いている姿が流れている。かなり怖い。
「っていうか、養女みたいだよ。そのへん話してくれないけど、血は繋がってるけど違うとかなんとか。」
遺伝子がどうこう言われても、医学がそれほど発展しておらず、薬草に便りがちなこの世界の住人リベルテにはわからない。
だから、その辺は二人の仲で適当な結論を出すことにした。
「たぶん、兄弟の子供を養子にしたんだ。間違いない。」
「それが妥当だもんね。」
勿論、二人の出した結論は真実にかすりもしなかったのだが、そこはまた別のお話だ。
「まぁ、でも、結局は妻子持ちなのかぁ。」
アターカが溜め息を吐くとリベルテが笑う。
「オゥルカのこと好きだったの?」
「バッ、違う! 勝手なこと言うな!」
「嘘だー! 絶対に好きなんでしょ!?」
もう、こうなれば白状するまでつっこむ。そんな気がなかったとしても。
いつの時代もどの世界でも、女の子は恋物語に口やかましい。
「そんなんじゃない! ただ、すがれば暫く留まって、民主主義の手伝いをしてくれたかもしれないだろう!?
でも、そんな卑怯な手を妻子持ちにするのは悪いことぐらい知っている。」
部下の多くが男だと、どうしても子供の出産がどうのとか、妻がどうのという話を聞く。
なんだかんだ言って、男という奴は妻子の事が気がかりなのだ。特に、娘の事は心配でならないらしい。
それをわざわざ引き止めるのはさすがに気が引ける。
というか、ほとんどの兵は引き止めると、普段の精悍な顔が崩れるから見たくないというのもある。
「アターカもあくどいよね。」
リベルテが呆れきった眼差しを送る。
「ふん、お互い様だろうが!」
我ながら子供っぽいと思いながら、アターカは空を見上げた。つられてリベルテも空を見上げる。
満天の星空は、まるで希望の欠片を撒き散らしたように輝いている。
でも、そのどれもがとても小さくて、明日には消えてしまうのではないかとも思えた。
翌朝、ヴィスが朝一番でアターカのテントにやってきた。
目的はリベルテに竜の社会について話すことであり、ついでに声を聞きたかったからだ。
ずっとリベルテに避けられていたので、ここ最近は声も聞いていない気がした。
「リベルテ、おはよう。」
元気欲挨拶するつもりだったのに、久しぶりなせいかどこかぎこちない。
「おはよう、ヴィス。」
リベルテがにこりと笑う。
たとえ洗い流せない怒りを抱いたとしても、ずっとそれを持っているのは自分が苦しい。
「怒ってないの?」
「怒るのに疲れたから、考えないようにしたの。」
それはむしろ、関心を寄せられていないことを意味する言葉に近い。
ヴィスは衝撃を受けて、また悲しくなったが、泣くわけにはいかなかった。
「あのさ、えっと…ちょっと話できるかな?」
まさかいきなり「あのさ、最近民主主義が流行ってるから、僕達風の平等な社会の形を教えてあげるよ。」なんて言えない。
ヴィスがリベルテの顔色を窺おうと首を傾げる。
「朝ごはんまでに済む?」
「たぶん。」
「じゃあ、いいわ。」
リベルテはにこりと笑ったが、表面上のものだということはよくわかった。
人気の無い方へ歩きながら、ヴィスはどう切り出すべきかと悩む。
「あのねリベルテ。」
「うん。」
「えっと…。」
その先がわからない。最初の意気込みなんてどこふく風だ。
「用事、無いんだったらあたし戻って良い?」
その言葉に焦りを感じたヴィスは、リベルテの腕を握る。
リベルテはその手を払いのけた。
「あたしも殺す?」
リベルテの顔が青い。片手で握り締めた腕にはヴィスの手形がついてしまった。
「そんなつもりじゃないよ!」
今度は強く怒鳴りすぎて、周囲の木々を揺らしてしまった。
まずい、竜の力が安定しない。これじゃ、いつリベルテを傷つけるかわからない。
「殺すつもりじゃなくても、あたしを罠にかけるの? 結局何がしたいわけ?」
痛烈な言葉には、警戒心と恐怖が滲んでいる。
「ボクは…その、君が民主主義に興味を持ってるみたいだから、竜風の平等な社会の形を教えたかっただけで…別に他にはないよ。」
顔を見るのが怖くなって、ヴィスは目を逸らす。
「竜の…。」
リベルテが考えるそぶりを見せる。
計算高い部分では竜の社会について知りたいと思った。一度、炎の竜の島に行ったが、とても短い時間だった。
あんな巨体がどうやって共同生活をしているかなんて、一日ではわからない。
しかし、彼女の心がヴィスを許さない。
凰火と話せたのは傍にアターカがいて、何かあったときもどうにか助けてくれる気がしたからだ。
だが、今は周りに誰もいない。
一対一で話し合うには、凰火もヴィスもまだまだ脅威だった。
頭が割り切っても心が割り切れないのだ。目を瞑れば、返り血で赤く染まった二人の姿が浮かぶ。
「竜と人間じゃ考え方も違うし、竜みたいに割り切れるものじゃないから、
そのうち教えてもらうかもしれないけど、今はどうでもいいよ。他に用事がないなら帰るね。」
ヴィスの返事も聞かずに走り出した。
せめて、ヴィスが「ごめん」の一言を言ってくれれば、こんなに苦しまずに済むのに。
それぞれの思惑から、言葉を交わすようになったリベルテ、凰火、ヴィス、アターカだが、以前とは違う部分も多い。
リベルテは自分の運命の不条理をやはり嘆いていたが、それ以上にドワーフ族全員の幸福を願うようになった。
凰火は正義を翳すことを忘れ、血と戦に酔いしれ、リベルテとは考えの核心で平行線を辿る。ヴィスは、様々な約束ごとに苛まれ、本来の自由で陽気な心を蝕まれつつあった。
そしてアターカは、王政の矛盾に目を瞑らず、心から政治の本質が変わることを望むようになった。
正義の形は様々で、信念を掲げてもそれが正義か悪かは計り知れない。
ただ一つ分かることは、子供の時のように、絶対的な正義のヒーローには誰もなれないこと。
無邪気に笑ってはいられない。みんな深みへ堕ちてしまったのだ。
「出発だ!」
今日も旗の下で血が流れる。
最終更新日 2005/08/02
感 想 アターカは凰火さんに気があるようです。 この時点ではまだ気になる男程度です。 女心って難解なんだね。
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