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夜空には闇の竜が住んでいる。
彼等は過去から未来にかけて、気の遠くなるほどの時間を、星と月の運行に捧げてきた。
それが彼等の仕事だったし、彼等もこの知的な作業を好んで行った。
が、時にはちょっとした変わり者もいる。
「ジェラーニヤ、君は本当に地上に降りるのかい?」
朝がやってきて、やっと二匹分の仕事を解放された闇の竜が言う。
「そうだとも。何せ事は性急だ。そう、馬車が崖を駆け下りるように、世界は転落しようとしているんだ。」
ジェラーニヤと呼ばれた青年竜が、覇気に満ち溢れた瞳で答える。
「そんな事、俺達の知ったことじゃないだろ。むしろ、地上に降りてしまったら、空には戻れなくなってしまうって話じゃないか。やめておくべきだ。」
「賢明な意見をありがとう。だが、そういう考えはいけない。同じ作業にばかり従事していると考えが凝り固まってしまう。君も、予測不可能な生を生きるべきだね。例えば、恋って奴かな。」
「余計なお世話だ。」
説教口調のジェラーニヤに対して、呆れ顔で闇の竜が答える。
「じゃ、俺はもう行くよ。君にギアミェートリヤのご加護を!」
「あぁ、わかった。ギアミェートリヤのご加護を。そして君に天空の道理の微笑を。」
元来、闇の竜というのは感情が薄いのだが、それでも同僚は、ジェラーニヤの去る事を尻尾の先で泣いている風だった。
「ありがとう、友よ。」
ジェラーニヤは笑って尾を立て、天の底に飛び込んだ。
暁の空を、雲の上から竜が落ちていく。
蝙蝠のような真っ黒な翼を広げて、ただ自分の決意を信じて。落ちていく。
「ところで、貴方の名前を聞いていなかったのだけど、どういう名?」
白いフードを被った女は、薄紫に染まる空を見上げながら傍らの竜に問う。
「竜は本名を明かさない。」
尖った鼻の先をヒクヒクさせて、光の竜が怒る。
「結構。竜の本名なんて人間には発音さえ不可能なはずだから。私が必要なのは、貴方の呼び名だ。」
「…呼び名。」
「無いならば勝手につけてやろうか?」
少し戸惑ったような顔の竜に微笑む女。
「いらない。ちゃんとあるもの。昔々に呼ばれた名前。ラス。って言うの。」
「ラス…。私はミェースチ。ミューって呼んでかまわない。」
「わかったわ、ミューね。」
ラスが頷くと、ミューはにこりと笑う。
「さて、本題に入ろうか?ラスは人間に化けられる?」
「できるけど…どうして?」
ラスが長い首を傾げる。
「甘い!今は神話の時代…貴方が幽閉される以前の時代と違って、地上には人間が溢れてる。人間って奴は変な生き物で、集団になるとどんな事だってやってのける。例えば、同族殺し。」
「…つまり、人間に取り入って世界をめちゃくちゃにする準備をしようって事かしら?」
「そういう事。いくらラスが強くても、私が丈夫でも、世界中を壊しつくすには時間も力も足りない…。そうだろう?」
「そうね。」
ミューは苦い顔をして頷く他になかった。
何せ、彼女が岩牢へ閉じ込められるはめになった時でさえ、彼女は世界の半分しか壊すことができなかったのだから。
「とりあえず目星はつけてある。この近くにあるプシニーツァって国の王だ。」
「そんな簡単に取り入る事ができるの?」
彼女は竜で、国だの王だのという制度には多少疎いといえ、国王という者がそう簡単に取り入れる立場に無いことぐらいはわかっている。
だから、疑いのまなざしをたっぷりこめて問うのだ。
「その辺はご心配なく。ほら、私は俗に言う美貌の持ち主だろう?下準備はしっかりとしておいた。」
「結構えげつないのね。」
「これくらい毒が無ければ世界を憎めないさ。」
ミューが笑う。
突風がミューのフードを奪う。
長い長い黄金色の髪が、シャラシャラと空を撫でる。
最終更新日 2005/05/19
感 想 主格になっていく予定だった闇の竜ジェラーニヤ。(以下:ジェラ) 話の鍵を握る悪役ヒロインの予定だった光の竜ラス。 二人の新たな生活の始まりを書いたはずなのに……。
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