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私は今、"魂込め"という称号の重さと、素晴らしさを実感している。
隠す必要も無い事実だが、私は"魂込め"の彫刻家だ。
この世の全ての職人と芸術家の中の、ほんの一握りの者だけが手にする最高峰の称号と技術。
文字通り作った物に魂を込める事が出来る、その証だ。
そして私は、その才を神に与えられた。本当に、素晴らしき恩寵だ。
こんな訳で、私は今ノミとハンマーを手にして石に向かっている。
六歳になる唯一の孫娘の為に、魂を込めて彫刻を作るのだ。
猫が好きだと言うから、それにしよう。
忠実で愛らしくて、それでいて猫らしさを持つ小さな友人を作ろう。
ありったけの愛情と、彼女を世に送って下さった神への感謝を込めて、少しづつ、削っていく。
そうやってこの三日間、細心の注意を払ってきた小さな友人も、あと一回ハンマーを振るえば完成だ。
孫が石の友人を抱き締め、笑顔で礼を言う場面を思い浮かべながら、愛しみを込めて石の頭を撫でていると、玄関のベルがけたたましく鳴り響いた。
やれやれと立ち上がり、戸を開けて差し出された電報を受け取る。
配達人を見送って、その場で封を切ると、声を出して読み上げる。
「キデン ノ マゴ マリア サクバン ジコ ニ ヨリ シボウ オッテ ノ レンラク マタレヨ」
手に力が入らなくなり、落ちた電報が風に攫われた。
何故。
神は、何故、このように無情な運命を、彼女に課したのか。
こんな老いぼれでなく、何故、五歳の子供を。
ぼんやりと部屋に戻り、先程までは愛情に溢れた心をもって座っていた椅子に、絶望に囚われて座る。
ああ、あの愛らしい声はもう聞けない。
可愛い彼女の成長を、もう見守っていく事ができない。
「神よ、慈悲ある神よ。あの子を生き返らせるのが無理ならば、どうか私をあの子の元へ…!!」
呟き声は、誰も居ない部屋に消えた。
ふと机の上を見ると、あとほんの一打ちで完成する小さな友人が目に入る。
そうだ、この仔が私を慰めてくれるかも知れない。
息子夫婦の元へ送れば、彼らの支えにもなってくれるかも知れない。
ノミとハンマーを手に取り、深呼吸をして刃を石に当てる。
どうか、私達の悲しみを、孫娘との美しい思い出だけを残して、綺麗に消してくれるように。
ああ、けれど、もし叶うなら、あの子の傍に…。
ハンマーが軽く弾かれ、音を立てて、石が削れる。
道具を机に置き、石の猫を見守っていると、ゴトリと音を響かせてこちらを見上げた。
「…あんたが望んだ未来は、何処いった?」
低く、重い声で言い、ハンマーを取ると、ふよと目線の高さまで浮かんできた。
ハンマーを振り上げ力を込めるのを見て、我知らず顔が綻んだ。
…何処にも。
これから、傍であの子を愛する事ができるのだから。
最終更新日 2006/11/18
二 言 aliothの描いた「人形」という題の絵から、 こんな素敵なお話を考えてくださいました。 竜龍さん、HP掲載を快諾してくださってありがとうございました。 |