ある世界の来訪者達

著者:鳳鳥 剣龍さん

 

世界が二つに別れて以来、この世界に異界の旅人が再び訪れるとは誰も思わなかっただろう。
かの者の子供達が訪れるのを……。
「参った、完璧に参った」
襟足を結んだ漆黒の髪に紫水晶の瞳の少年が途方に暮れている。
衣服はこの世界では見馴れないものを着ていて、更には細身の剣を左腰に差していた。
明らかに目立ち、周囲から不思議な目で見られるだろう。
が、実際に見られていた。
しかもこの世界の竜達に……。
「貴方達は誰ですか?」
その内の黒い竜が少年に尋ねる。
そして少年は素直に答える。
「刀耀……斬狼汰」
刀耀凰火の息子、斬狼汰であった。


斬狼汰が今いる世界が"ドゥルゴーイ"という人間以外の種族が存在する世界だった。
そこにいる竜は炎、水、風、地、闇という一つの種族で存在している。
驚くことに"ドゥルゴーイ"の下には"チャース"という人間だけがいる世界があった。
自分たちが住んでいる世界、"インペリアル"とはまったく違うみたいだ、と斬狼汰は思う。
それから斬狼汰はこの世界の事情も知らずに自分の素性を話してしまった。
"トウヨウ オウカ"の息子であると……。
「拘束しろ!」
風の竜を統一する風の長老竜という竜が怒号を上げた。
斬狼汰は呆気にとられて抵抗せずに、人間となった竜達によってそのまま拘束されてしまった。

斬狼汰拘束後、"ドゥルゴーイ"で長老竜達による会議が開かれた。
無論内容は斬狼汰の処置についてだ。
因みに長老竜達は人間である斬狼汰に合わせて人間の姿に化けた。
「では、会議を始めます」
若い女性の人間に化けた水の長老竜オーズィラが議長となって会議が始まった。
続いて右隣にいるのが先程、斬狼汰を拘束するように命じた風の長老竜プレッツリヒ。
その隣に、斬狼汰と同じくらいの少年に化けた闇の長老竜ニシトー、背の低い男に化けている炎の長老竜パジャール、そして小さな少年の地の長老竜ルドニークが椅子に座っている。
斬狼汰はと言うと、五人に囲まれている為、その真ん中で正座している。
「『異界の旅人』のご子息、名前は?」
「トウヨウ ザンロウタ、分かりにくかったら『アスラ』と呼んでも構わない。父上の旧名だが」
オーズィラの問いに斬狼汰は堂々と答える。
堂々とした性格は父親譲りだ。
それから幾つかの質問を出されて一言一句答えた。
名前の他に、この世界に来た目的、その人数、武器は持っているのか、敵意はあるのかと警戒しているといったような質問だった。
次の質問。
「では、『異界の旅人』。いえ、トウヨウ オウカは生存していますか?」
この時になって初めて斬狼汰の表情が歪んだ。
「父上は……亡くなっている」
『!?』
斬狼汰の少し間を置いた答えに長老竜達(特に年配の方は)驚いた。
"ドゥルゴーイ"と"チャース"が一つだった頃、刀という細身の剣で人間に化けた竜と対等に戦った人間が死んだとは誰も思わなかっただろう。
先に我に返ったパジャールがその死因について訊ねる。
「亡くなった原因は……?」
「赤子だった俺はよく覚えていないが……、俺達家族を守って戦死した」
「そうか……」
パジャールはそれきり黙った。
次に我に返ったのが過去に凰火から傷を受けたプレッツリヒだった。
「化け物でも死ぬ事があるのだな」
「何!?」
その一言に斬狼汰が少し怒る。
父親を侮辱されて、挙句の果てには化け物呼ばわりするのは許せなかった。
「お前に父上の何が分かる!」
「異界から来た恐ろしい男で戦場に多くの血を流した大量殺人者だ!」
「キサマァッ! それ以上言うな!」
「黙れ化け物の子よ! これ以上この世界に止まるな! さっさと仲間を連れてこの世界から去れ!」
激しい口論となった斬狼汰とプレッツリヒ。
議長を務めるオーズィラは呆気に取られていて、ニシトーは少し怖がっているルドニークを宥めている。
「この世界にまだ止まるつもりなら力ずくで追い出してやる!」
風で槍を形成し、プレッツリヒはそれを持って構えた。
「『黒』! 祢々切丸(ねねきりまる)だ!」
懐から黒い真珠を取り出すと、そこから黒い竜が長い刀を持って現れた。
斬狼汰の身長をかなり超えている大刀。
『黒』と言う黒い竜から大刀を受け取り、背負って鞘から刀を抜く。
乗り手がいなくなった暴走馬車の状態となった二人は最早止まらない。
「自分はプレッツリヒ! 風の長老竜で"ドゥルゴーイ"を守護する者です! 良く覚えておきなさい!」
戦闘前の名乗り上げをするプレッツリヒ。
斬狼汰もそれに答える。
「我が名は刀耀 斬狼汰!! 刀耀 凰火の子で刀耀流後継者! 敵を斬る刃なり!!」
プレッツリヒに向けて先手必勝の横一閃を放つ斬狼汰。
振りは速く、少しだけ反応が遅れたプレッツリヒは衣服を掠らせた。
予想外の一撃に驚くプレッツリヒだが直ぐに戦闘状態の顔に戻す。
「当たらなければ意味が無いぞ」
「当たり前だ。準備運動のつもりだからな」
「減らず口を!」
プレッツリヒの怒号と共に突風が吹き荒れる。
そして同時に踏み込んで斬狼汰に向かって槍を穿つ。
「ちっ!」
刃先を地面に突き刺して跳躍し、斬狼汰はプレッツリヒの突きをかわす。
今いた場所に着地して大刀を引き抜き、すかさず反撃に出た。


場所が変わってここは"チャース"。異世界に訪れているのは斬狼汰だけではなかった。
"ドゥルゴーイ"の下にある"チャース"にも異世界からの旅人が訪れている。
人数は二人で両方、女性である。
1人は一応、この世界の衣服に合わせて着ている大人の女性。
短い茶髪に斬狼汰と同じ紫水晶の瞳、姉の清水 岬。(旧名、刀耀 岬)
もう1人は"ドゥルゴーイ"にいる斬狼汰と同じ見慣れない衣服だが色が違う。
少し暗い緑が入った黒髪と瞳で、顔立ちは少しだけ幼さが残っている少女、名は國生 紗夜。
2人がいるのはとある国の議員が住む家。
"トウヨウ オウカ"と共に旅をしたリベルテ・ネゴシアシオンだ。
偶然にも運悪く次元跳躍で大統領官邸の中に着地してしまい、大騒ぎになったところ、自分達の素性を話したところ、凰火のことを知っていたリベルテの計らいで今に至る。
「本当にありがとうございました」
「ううん、オウカの娘さんに会うとは思わなかった」
「それで……父さんとはどういった関係ですか?」
「そうね……でも、その前に普通に話してくれないかな? あたし達それほど年が離れてないし」
「……分かったわ。改めて、父さんとはどんな関係だったの?」
それから暫く、岬はリベルテから凰火との出会いから、凰火がこの世界から去るまでのことを話してもらった。凰火のことを知らない紗夜もリベルテの話に耳を傾けて聞いている。
「それでね、凰火はお父様と同じくらいロマンチストだって思ったのよ」
「意外ね……家では口が裂けても『愛している』なんて言わないのに」
「いつもならどうなの?」
「毎朝自己鍛錬を欠かさず行って、その後は一日中釣りをしているわ。斬狼汰……あ、弟のことだから。で、斬狼汰が生まれてからずっと一緒に遊んでいたよ。……剣術の修行だったけど」
最後だけ皮肉を込める岬。それに苦笑するリベルテ。
最初は凰火のことを話していたが、斬狼汰が出てきて、ここからは斬狼汰の話となった。
特に話をしたのは意外にも紗夜だった。
「最初に斬狼汰さんと会った時は何て無礼な人だろうと思いました」
「あいつ、紗夜ちゃんが水浴びしている最中に滝から落ちて、川から上がろうとした時に見ちゃったのよねぇ」
「お、お姉さま!」
顔を真っ赤にして紗夜は怒るが、照れているため、あまり怒気が含まれていなかった。
それから斬狼汰の性格、凰火との比較を話していくうちに時間が過ぎる。
3人が話に夢中になっていて、ふと扉からノックが聞こえた。
リベルテの息子、ウートラが扉を開けて外にいる者を見ると、そのまま固まってしまう。
「どうしたの?」
不思議に思ってリベルテがウートラの許へ寄り、開いている扉の方を見ると、今度はリベルテが固まった。
その様子を見ていた岬と紗夜も扉の方に目を向けると、そこには斬狼汰が立っていた。


斬狼汰を見たリベルテは眼を瞬かせて、もう一度斬狼汰を見る。
自分がまだ少しだけ幼かった頃に出会った凰火と斬狼汰を照らし合わせる。
若干、斬狼汰の方が若く、瞳の色が異なっていたが似ていた。
話をしていて岬から凰火が死んだと聞かされていたが、目の前にいる斬狼汰を凰火だと一瞬だけ思った。
険しい顔付き、けれども優しく、力強い異世界の男。
今までのことを思い出した瞬間、リベルテは思わず涙を零した。
母親が泣いたのを見たウートラは驚いて、必死に母親を泣き止ませようとする。
一方、斬狼汰は急に泣いたのを見て慌てふためき、視界に入っている岬と紗夜に助けを乞う。
が、
「あんたが蒔いた種だから自分でなんとかしなさい」
と、無責任なことを言う。
その後、リベルテが泣き止むと、斬狼汰を交えて再び語り合った。


因みに、"ドゥルゴーイ"でプレッツリヒと戦った結果はというと……。
刀を失い素手の状態だった斬狼汰に、プレッツリヒが渾身の突きを放つが、斬狼汰は槍の刃が自分に刺さるスレスレで交わし、プレッツリヒの鳩尾に拳を減り込ませて戦闘不能にさせたという。



最終更新日 2007/03/02
三    言 『ある世界の物語』の後日談を書いてもらいました。
        プレッツリヒはいつまでもへたれだなと思います。
        HPに載せることを快諾してくださってありがとうございました。